ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第36回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第36回

どのように作家が
コロナの影響を受け死んだかを
記しておきたいと思う。

緊急事態宣言も概ね解除されたが、未だにコロナの影響から抜け出せない今日この頃である。

当連載もバックナンバーを読み返してみると、コロナ初期の時は「漫画家には基本的無影響だが」などと言っているが、徐々に「イベント中止」「雑誌が休刊」「単行本を売ってくれる場所がない」など不穏な空気が漂い始める。
ひとりの漫画家がだんだん死んでいく過程として有益な資料なのではと思えてきた。

そして今回、その有益性を増す事態が起こった。
3月下旬に発売した漫画の単行本がコロナの影響で売り上げが振るわず漫画家にとって一番避けたい「打ち切り」の危機に瀕しているのだ。

「コロナの影響で」というのは「そういう設定」である。
正直コロナがなくても売れなかった可能性はある。むしろ高い。だが俺の心に優しいのでそういう設定にしてある。

しかし少なくともコロナが「全く無影響」とは言えない。3巻で打ち切られるはずだったものが2巻で切られようとしている程度の差はあるはずだ。

だが1巻でも大きい。次巻で終われと言われたら、広げた風呂敷をとにかく丸めて団子状にするしかないが、もう1巻あれば「角は全く揃っていないが辛うじて四つ折りに見える」ところまで持っていけるかもしれない。

コロナさえなければというのはもはや無意味な仮定であり、コロナがなかった世界線に今流行りの異世界転生でもしない限りはわからないし、そもそもそんな地味な異世界転生物は売れる気がしない。

あとピンチだから本を買ってくれ、と言うのもここではやめておこう。言いたいが何せ他社なので書いても削除の恐れがある。

せっかくコロナの影響を受けて(仮)窮地に陥っているのだから、資料としての有益性を増すために、どのように作家がコロナの影響を受け死んだかを記しておきたいと思う。

ちなみにあくまで私個人の体感と予想と妄想なので「これが出版業界の真実や」とは思わないでほしい。思っても良いが、笑われると思う。

まず「コロナのせいで本が売れなかった」という言い訳の根拠だが、まず都心の大型書店が休業してしまった。

全国の書店が休業してしまったわけではないが、私のような三下奴で語尾が「ゲス」の木っ端作家はまず本の初版部数が極めて少ないんでゲス。

どのくらい少ないかは、言うとドン引きなので言わないが「全国書店に行き渡るほどない」ため、まずは都会の大きな書店に集中して置かれる。よってそこが休業するというのはかなり痛いのだ。

次記事

前記事

カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

【2020年の潮流を予感させる本(1)】デヴィッド・ハーヴェイ 著、大屋定晴 監訳『経済的理性の狂気』/世界の危機的状況がわかる
「障害者スポーツ」という概念もなかった時代の日本で、なぜパラリンピックが開催されたのか。