「推してけ! 推してけ!」第69回 ◆『探偵小石は戻らない』(森バジル・著)

「推してけ! 推してけ!」第69回 ◆『探偵小石は戻らない』(森バジル・著)

評者=村上貴史 
(書評家)

探偵小石が〝殺人犯〟? 窮地を逃れるには、推理するしかない!


 本屋大賞にノミネートされるなど高評価を博した森バジルの長篇ミステリ『探偵小石は恋しない』の続篇を紹介しよう。『探偵小石は戻らない』だ。今回も小石が探偵役を務めるのだが、前作以上に、極めて個性的な作品である。しかしながら、どのように個性的なのかは、本稿には明記しない。帯にも「絶対に事前情報なしでお読みください!!」とダブルエクスクラメーションマークで記載されている一冊なので、その趣旨を尊重することにする。とはいえミステリを数多く読んでいる方は、本稿からある〝察し〟を得てしまうかもしれない。だが、察してもなおかつ愉しめるのが本書なのである。そこは冒頭で強調しておこう。

 さて、読者はページを開くと最初の章で、福岡の探偵事務所の所長である小石が窮地に追い込まれているシーンを読むことになる。彼女は探偵でありながら、殺人者として追及されているのだ。それも、第四の殺人を犯したばかりの連続殺人者としてだ。追及しているのは、芥川七瀬である。小石の事務所で調査員を期間限定で務めている女性だ。部下探偵がボス探偵を告発、という構図なのである。そして小石の足元に横たわっている男性は、七瀬の夫の士郎だ。七瀬は、士郎が小石に毒殺されたのだと主張する。他の三人の被害者同様に、だ。さらに七瀬が小石に対していくつもの証拠を突きつけながら追及を続けるのに対し、小石は有効な反論をできずにいる……。読者は、探偵役と予想していた人物が、いきなり最重要容疑者として扱われる姿を読まされることになるのである。

 続く章で読者は、追加の情報を得る。七瀬と士郎の自宅である高級マンションの一室で、横たわった士郎の傍らで小石が膝立ちになった状況に関する情報などだ。読者はその後も、様々な情報を得ていく。小石が犯人とされる連続毒殺事件の模様であるとか、小石探偵事務所が手掛ける他の調査であるとか、さらには登場人物たちの人間関係であるとか。そうやって読者の脳内に知識が蓄積されるにつれ、小石はますます窮地に追い込まれるように思えてしまう。

 そんな読書の果てに物語がどう決着するかは是非読者自身で御確認いただきたいのだが、まさかこんな仕掛けだったとは、と驚くに違いない。いやはや森バジル恐るべし。ちなみに本書に興味を持たれた方には、ジェフリー・ディーヴァーの『オクトーバー・リスト』もお薦めしておこう。どんでん返しの魔術師らしい技が味わえる。

 閑話休題。読者が戸惑うであろうもう一つのポイントは、この小説において、前作の特徴がそれこそ封印されたかのように進む点である。小石は、ある理由により色恋にまつわる調査に抜群に長けている。これが第一弾の特徴であったのだが、それがこの第二弾ではほとんど顔を出さない。何故なのか。読者はそんな疑問を抱きながら、本書を読み進めることになる。

 登場人物たちの恋愛関係も読みどころの一つだ。誰が誰にどんな感情を抱いているか、どう変化するか。それぞれの想いが、小石の特殊能力や不倫調査という業務などを通して、そして本書ならではの枠組みを活かして描かれている。感情の動きが新鮮に読めて愉しい。

 という三つの特徴が絡みあいながら成立している本書。続篇としてのあり方は極めてユニークで、しかしながら読み終えてみるとこの上なく続篇という一冊である。本書単体でも個性的で挑戦心に溢れるミステリとして十二分に刺激的に読めるように作られてはいるが、ここはやはり第一弾から読んでおきたいところ。ぜひ二作品を続けて読み、小石をキーパーソンとした驚愕と恋愛を堪能し、そして森バジルという作家の実力を堪能してほしい。

 最後に付記を一つ。内容面で十分に仕掛けの多い本書だが、紙の書籍には、もう一つの仕掛けもある。現物を要チェックだ。

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探偵小石は戻らない

『探偵小石は戻らない』
著/森 バジル


村上貴史(むらかみ・たかし)
1964年、東京都生まれ。書評家。著書に『ミステリアス・ジャム・セッション』、編著に『名探偵ベスト101』など。

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