『爆弾』呉勝浩/著▷「2023年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

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人生における「爆弾」になりうる一冊


『爆弾』コラム画像
直木賞候補になった時に、たくさん書いていただいたサイン本。その後、製本前の見返しに1000枚サインを書いていただくことを、この時の呉さんはまだ知りません……。

 2年前の8月、異動と同時に呉勝浩さんの担当編集を引き継ぎました。当時、『爆弾』は前の担当がちょうど最初の原稿をいただいたところ。前担当とは、定期人事異動でちょうど入れ替わる形で担当替え。私もすぐさま原稿を読ませてもらい、作品に込められた熱量に震え、「すごい作品を読んでしまった」と感動するのと同時に、自分がお預かりすることに大きなプレッシャーを感じたのを覚えています。

『爆弾』は、東京都民を人質にとった連続爆破テロ事件をめぐる、爆弾魔と警察の攻防のお話。微罪で捕まったスズキタゴサクと名乗る男が、1つ目の爆発の予言を的中させるところから物語は始まります。「あと3度ある」と言われる爆発を止めるため、警察はスズキから与えられる僅かなヒントを頼りに爆弾を捜索。しかし、スズキはのらりくらりと刑事の追及をかわし、「命は平等って、ほんとうですか?」と読み手の正義感を試すような言葉を吐きます。そして、新たな事件が発覚し、やがて物語は驚きの結末を迎えます。

 一気読み間違いなしのミステリー作品ですが、実は約半年間をかけて呉さんに改稿をしていただきました。2月発売の「小説現代」に全編公開というタイムリミットもあり、呉さんと前担当の3人で2021年の後半は全力疾走で進行。結末の鍵を握る後半のある箇所についてや、タイトルについてなかなか結論が出ず、大晦日にもオンライン打ち合わせをしたのは今ではいい思い出です。

 ちなみに、『爆弾』という潔いタイトル。検索のしにくさや、何より勇気のいる堂々としたタイトルで、決定後も呉さんは少し不安に思っていらしたそう。その不安を吹き飛ばしたのは、デザイナーの高柳雅人さんによる、あの素晴らしいカバーデザインでした。反転した街並みに飛び散る青いインクと、静かだけれど存在感のあるタイトル。あのインク部分に盛られたUV加工は、厚く盛るために印刷会社の方とも打ち合わせを重ねるほど色々と工夫が凝らされているので、ぜひ触ってみていただけたら嬉しいです。

 また、ちょうど昨年末から年明けにかけて、呉さんと何店舗かの書店さんに改めてご挨拶に伺いました。発売からもうすぐ1年が経つにもかかわらず、たくさんサイン本を作らせていただけたことに呉さんと一緒に感動し、そのありがたさを噛みしめた瞬間でした。改めて、本屋大賞の候補作に選んでいただけたこと、本当にありがとうございます。

 この本は、読んだ人の人生における、まさに「爆弾」になりうる一冊です。もし未読の方がいらっしゃいましたら、この機会にお手に取っていただけましたら幸いです。

──講談社 小説現代編集部 落合萌衣


2023年本屋大賞ノミネート

爆弾

『爆弾』
著/呉 勝浩
講談社
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