◎編集者コラム◎ 『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』長月天音
◎編集者コラム◎
『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』長月天音
4+1回、本当に泣きました。
『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』単行本で謳われていた「4+1回泣けます」のコピー。「ほーん……?」とひねくれた目線を投げかけながら一読し、ものの見事に涙ぐんでしまいました。
1.交通事故で高校生の息子を亡くした母親の心を解く、僧侶・里見の言葉に。
2.自死を選んだおばあさんの、赤裸々な心の内に。
3.父親を亡くした幼い男児の、精一杯の奮起に。
4.通勤電車に飛び込んだ新社会人の娘に向けた、両親の言葉に。
5.そして、海に出たまま行方不明になっている男性を想う二人の女性の決意に。
見習い葬祭ディレクター・美空の奮闘を通して描かれる、誰かにとっての大切な人が亡くなってからの〝その後〟は、1話1話が漏れなく切実です。ましてや、彼女が行動を共にする上司・漆原が引き受けるのは、誰もが避けたがる「わけあり」葬儀ばかり。
表題作「それぞれの灯火」では、憧れのレストランに就職したはずが、通勤電車に飛び込んで亡くなった社会人一年目の女性の葬儀が執り行われますが、何度も何度も書き直したとのこと。
また、同表題作では、漆原の助手に徹していた美空が初めて通夜の司会を任されます。シリーズ一作目では随所で美空を助けてくれた、亡き姉の気配も薄れていることに気が付くはず……彼女の成長も読みどころの一つです。
好きなシーンがあります。
美空は東京スカイツリーの展望室である女性と遭遇しますが、彼女は、高さ634メートルの日本で一番天国に近い場所で、恋人が行方不明になった房総半島の海を見つめています。恋人はおそらく既に亡くなっている、しかし、遺体が見つからない以上は生きている可能性もゼロではない……そんな彼女の心境を表すのに、スカイツリーほど絶妙な場所はないと思いました。
作中に度々登場するスカイツリー(やりとりしていたゲラの中で、私が書き込んだ前述の感想に、著者の長月さんからは「スカイツリー愛です」とコメントが返ってきました)。
イラストレーター・しらこさんによるカバーイラストのような、春らしい情景が見られるまで、あと少し。ぜひ読んで、足を運んで、日常のかけがえのなさに思いを馳せてみてください。
──『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』担当者より
『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』
長月天音