『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈/著▷「2025年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

緊張知らずのふたり
成瀬あかりの魅力はたくさんあるけど、一番羨ましく思うのは〝緊張しない〟ところだ。〝緊張〟という言葉は、成瀬の辞書には存在しない。幼稚園の音楽会からMー1グランプリ、京大の入学試験に至るまで、常人ならガチガチになりそうな場面でも、あくまで平常心でハイパフォーマンスを見せる。
でも、そんな彼女が初めて緊張する場面があって、そこがまた素晴らしいのだ。もし、『成瀬は信じた道をいく』がお手元にあれば、成瀬が緊張という言葉を知り、身をもって実感するシーンまで辿りついてほしい。何度読んでもグッとくる。成瀬もひとの子なんだ、僕らと同じ人間なんだということが、とにかく優しい筆致でもって描かれている。
著者の宮島未奈さんもまた緊張知らずのひとである。どんな大舞台でも、前を向いて堂々と話し、その場のアドリブも見事にこなす。人前でのスピーチはおろか、一対一の打ち合わせでもあがってしまう僕からすると、はっきりいってスーパーマンに見える。心の底から羨ましい。
でも、どうして緊張しないだろうと思うと、その絡繰りは意外と単純で、結局は絶え間ない努力があればこそだ。「200歳まで生きる」と豪語する成瀬は、ただ口でいうだけではない。朝のランニングは欠かすことがないし、よく噛みながらごはんを食べる。そこには努力の裏打ちがある。
成瀬と同じように、宮島さんも間違いなく努力のひとだ。本屋大賞という大看板を背負って、様々な講演やイベントに出演していただき、数えきれないほどの取材やインタビューを受けていただいたが、それでいて締切通りに素晴らしいお原稿を送ってくださる。編集者の特権のひとつは、作家さんにとっての最初の読者になれることだけれど、その絶え間ない努力を間近で見ることが出来る、というのも個人的にはある。
そんな宮島さんの担当として1年以上ご一緒してきたなかで、初めて緊張なさっているのかなと思ったのが、去年の本屋大賞の発表会だった。いつも澱みなくお話しになられるのに、この時だけ時折言葉に詰まるところがあった。流石に緊張なさっているのかしらとのぞいてみたら、うっすら涙を浮かべていらっしゃった。宮島さんの感極まった様子に、とても衝撃を受けたし、無性に嬉しくなってしまった。
今年は続編『成瀬は信じた道をいく』がノミネートされることになった。あとは、成瀬と一緒に何処までも突き進んでほしい。

──新潮社 出版部 水本佑史