特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第3回]

特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第3回]

 世界の津々浦々を駆けめぐり、苛酷なロケに果敢に挑む姿が共感を呼んでいるイモトアヤコさん。彼女がいまいちばん会いたいという松浦弥太郎さんに人生のこと、仕事のこと、コミュニケーションのことを訊く、話題のスペシャル対談の最終回です。

他人の意見は聞いても決定は自分
撤退も大事としなやかに考える

 イモトさんが多忙な日々のなか、「座右の書」として大切に読んでいる本が、元「暮しの手帖」編集長の松浦弥太郎さんによるエッセイ集『伝わるちから』(小学館文庫)です。「たくさんページを折って、たくさん線を引いて、わたしの本棚のなかで一番汚してしまった本です」と絶賛するイモトさんと、著者の松浦さんの対談が実現しました。
 仕事観、人生観、対人コミュニケーション。イモトさんの悩みに、松浦さんは多岐にわたる「作法」をアドバイス。「改めて松浦さんのことが大好きになりました」という二人の対談、今回が最終回です。

直感はとりあえず置いておく

イモト
何かを決める時に、わたしはけっこう直感で決めるほうなんです。それはそれで良いなと思っているんですけど、その直感を鋭く保ち続けるために、松浦さんがやられていることって何かありますか。また、クリアにモノを見るためには、どういうふうに生きていたら、直感が鋭くなるのでしょうか。

松浦
僕も「直感系」の人間ではあるんですよ。いろんなモノに対して直感で決める。直感で決めること、感じることが、すごく大事だよなあ、って、そういう自分って良いなあ、って思っていたりする時がありました。

イモト
はい。

松浦
でも、僕ぐらいの年齢になると、「直感? うーん」みたいな。あまり直感を重要視しなくなってくるんです。

イモト
へえ!

松浦
「直感って意外と大したことないな」って。だから、最近はあんまりこだわらなくなった。直感で何かを思っても、すぐにそれを信じて何かの判断をすることはあまりない。しばらく「ふーん」と思って置いておく。時間が決めてくれるようなことがたくさんあって、そっちのほうが大事な気がします。

イモト
「時間が決めてくれること」。(少し考えて)それって、直感のままにはすぐに動き出さない、ということですか。

松浦
無理に自分の直感を信じてこだわるよりも、「ふわっとしている感じ」が今は良いんです。僕は自分のことを根本的には信じているし、「最後は自分だ」と思っているんですけど、意外と自分のことを疑っているんですよ。「バカじゃないかな、僕」って。「何考えているんだろう」とか(笑)。

イモト
自分で自分にツッコむんですか。

松浦
そうそう。「たぶんこれ、正しくないな」みたいな気持ちを持って。「たぶんこれ、間違っているな」「わからないから、わからないままにしておこう」みたいな。

イモト
「直感を置いておく」みたいな感じですか。

松浦
そういう感じ。正しい場合もあるし、違う場合もあるから、とりあえず置いておく。

イモト
時間をおいて考えてみる。放っておく。

松浦
そういう感じがあります。

イモト
ほー。へえ!

松浦
意外とね、「他人任せ!」。はっはっは(笑)。

イモト
あっはっは。良いですね。

イモトアヤコさん

松浦
「皆さんよろしく」みたいにしてラクにしているところもある。そういうの、大事な気がするんです。

イモト
なるようになる時は、なるようになる。そういう感じなのですね。直感を置いておく、か……。

松浦
ただ、イモトさんが出演されているバラエティのような番組だと、瞬発力が大事でしょう。直感を「置いておく」ということを、どれだけ現場で実現できるか、というのは難しそうではありますけれどね。

イモト
たしかに……。でも、「命の危険」みたいなことを直感した時は、直感で動く。それは必要だと思います。「これ、行ったら危ない」と思ったら直感で。「これ、やめておこう!」と思う感覚は持ちつつ、松浦さんがおっしゃったような場面では、たしかに「一個置く」というのは、やってみようと思います。

松浦
そうですね。そう考えてみることも大事だと思います。

長生きのコツは逃げ足の速さ

松浦
僕が、いつも肝に銘じていることは「逃げ足の速さ」なんです。

イモト
何事においてもですか?

松浦
そう。皆が「大丈夫、大丈夫」「そんな怖がらなくても」って言っても、自分が怖かったら早々に逃げるのが良いと思います。僕の経験ではいっぱいあります。

イモト
へえ。

松浦
皆が平気、とか、「あいつ、変じゃないの」「怖がりだな」って思われても、自分が「もう駄目だ」と思った時には、早く逃げたほうが良い。

イモト
ありがとうございます。逃げます!(笑)。たしかに。ケガみたいな物理的危険が迫る場合は、そうですよね。

松浦
そこの勘は大事。

イモト
根性論で「逃げ出さずに最後までやれ」とか……。

松浦
もう、そんなの絶対無意味。

イモト
一番良くない。

松浦
サッサと退散したほうが良いんです。僕ね、二十年ぐらい前に、九十八歳のおばあさんに長生きのコツを聞いたんですよ。そうしたら「逃げ足の速さ」だって。

イモト
あはは。じゃあ、間違いないですね。

松浦
戦争の時も、「皆がご飯を食べていて、『まあ大丈夫だよ』って言っていたけれど、怖かったからわたしは早く逃げた。皆、そこでバーンとやられちゃった」って。

イモト
ええっ。

松浦
「逃げ足の速さ」なんですって。長生きのコツ。強烈に印象に残ったんです。「健康を保つ」とかじゃないんだ、って。

イモト
「これを食べなさい」とかじゃないんですね。

松浦
そうじゃないんです。「逃げ足の速さ」。

〈第5回〉加藤実秋「警視庁レッドリスト2」
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第147回