特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第3回]
世界の津々浦々を駆けめぐり、苛酷なロケに果敢に挑む姿が共感を呼んでいるイモトアヤコさん。彼女がいまいちばん会いたいという松浦弥太郎さんに人生のこと、仕事のこと、コミュニケーションのことを訊く、話題のスペシャル対談の最終回です。
イモト
なるほど。間違いないですね。九十八歳まで生きたおばあちゃんの言葉なら。
松浦
自分も「たしかにそうだな」と思います。
イモト
でも、山男もそんなことを言っていた気がします。
松浦
「天国じじい」ですね。
*註 「天国じじい」……貫田宗男さん(七十歳)は「世界の果てまでイッテQ!」の登山部で活躍中の人物。飄々とした語り口が特徴で、氷点下の環境で「(テントの中は)天国だよ、天国」と発言し、あだ名がついた。素顔は登山家で、世界各国の高峰に挑む遠征隊を支援する会社の創業者。一九七〇年代からヨーロッパアルプスやヒマラヤで岩山、雪山に挑み続けてきた。
イモト
「天国じじい」はたいへんな体験をしているんです。二回目のエベレストに仲間と行き、頂上まで行って下山しようとしたんです。そうしたら、虫の知らせじゃないけど嫌な予感があって。「これは危ない」と思って、バーッて急いで降りたんですって。そのあと、崩れ落ちて、一緒にいた人は巻き込まれたそうです。「あっ!」って思った時にパッと逃げられる行動力はあったほうが良いですね。
松浦
ほんと、そうですね。
イモト
「まだ大丈夫」って思わないほうが良い。普段から、大丈夫だとしても気を付けておいたほうが良い。
松浦
逃げて、何もなかったということはいっぱいあるけれど、大事な気がします。スタコラサッサと。
イモト
逃げてしまう。説得力ある!(笑)
「従わない人間」でありたい
イモト
松浦さんは『伝わるちから』のなかで、「何かを見つけることが得意だ」と書いていらっしゃいましたね。それが素敵です。
松浦
ありがとうございます。
イモト
そして、この文章も大好きなんです。
とにかく母は僕に、買い物を通じて、たくさんの中から何をどうやって選ぶのかを教えようとしていた。何かと「はい、選んで」というのが口癖だった。
デパートで開かれた名画の展覧会に行くと、必ず「どの絵が欲しい?」と聞き、「あれが欲しい」と答えると、その絵のポストカードを買ってくれた。そのせいかどうかわからないが、大人になった今、僕は「選ぶ」という行為について人一倍早い。(『伝わるちから』より)
イモト
もし子どもがいたとしたら、「自分で選ばせる」「自分で選択させる」ということが、教育においてとても大切だな、って思うんです。我が家の場合、うちの母とか、子どもが三人いる妹などは、忙しい時には「はい、これにしなさい!」「これで良いじゃないの!」って子どもに言っているのを見るんです。大人の感覚からすると、時間もかかるから自分で決めてしまったほうが合理的だろうけれど、子どもの時って、スーパーに行って、お菓子コーナーから「一個買って良い」って言われた時、すごく真剣なんですよね。時間がかかったとしても。そこは大事にしてあげるべきだな、って。
松浦
うんうん。そうですよね。子どもの気持ちといえば、僕の場合、最近、初心にかえろうと思っているんですよ。大人になって、だんだんいろんなことに都合を合わせるようになっちゃっている。「これじゃダメだな」と。子どもの頃のような、初心にかえらなきゃって。
イモト
松浦さんの「初心」というのは?
松浦
僕の「初心」っていうのはね、僕は他人の言うことを絶対聞かない子どもだったんです。
イモト
えー?
松浦
あはは。いや、他人の話は聞くんですよ。意見は聞くんです。だけど、他人に何かを決められるのは大嫌い。
イモト
ああー。なるほど。
松浦
小さい時から親に言われたのは、「ほんとに、あなたは、誰の言うことも聞かない。親の言うことも聞かない。先生の言うことも聞かない」って(笑)。そういう子どもだった。でも、大人になると、言うことを聞く自分にだんだん変わってきたんです。
イモト
社会性も大事だから。
松浦
そう。でも、これじゃ、ダメだなあって。「自分で違う生き方をしているな」という思いが心の隅っこにあったんですよ。それを解決するために初心にかえろうと思って。他人の言うことを聞かない自分に戻ろうと思ったんです。自己決定なんですよ。
イモト
ああ。うんうん。
松浦
すべて自己決定する。他人に決定を委ねない。他人に決定させない。全部、自分で決める。だから、他人の言うことを聞かない生き方に戻す。だから、全然聞かないです。
イモト
全然聞かない! あっはっは(笑)。
松浦
話は聞きますよ。「そうですか。でも僕はこう生きる。こうします」って自己決定は大事な気がする。
イモト
でも、それが正しいですよね。自分で決めたことだから、責任を持つ。
松浦
僕、取材の仕事で海外や国内へ出張に行くじゃないですか。ホテルを他人に決められるのがイヤなんです。他人に決められると、何か落ち着かない。夜、幽霊が出るとかね。
イモト
ふふふ(笑)。
松浦
何かあるんですよ。何かそわそわして、疲れが取れない。それは他人に決められちゃったから。自分で決めたら絶対に、何かそういう部屋って不思議と選ばないんです。電車にしても、ホテルにしても、自分で決める。他人に委ねない。
イモト
仕事だとしても、ご自分で決めるんですね。
松浦
そう。できるだけ自分で決めさせてください、って。
イモト
環境が合わなかったとしても、自分で選んだ責任だから、納得ができる。
松浦
そうそう。納得できる。すっごい面倒くさい人。
イモト
あっはっはっは。
松浦
だって全部、自分で決めたいんですから(笑)。他人の言うことは聞かない。
イモト
でも、自分の決めた意見と、他人の決めた意見が一致していたら、それはそれで良いんですよね。
松浦
そうそう。変に、意固地に、アマノジャクなわけじゃないんです。絶対に逆をやるとか、そういうことじゃない。だけど、基本的には自分で決めて。だから仕事も自分で受けているし、自分が塩梅しているんです。
イモト
じゃあ、今回の対談もご自分で決めてくださったんですか。