劇団四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」上演記念 キャスト特別座談会〈成長しあう喜び〉vol.3
劇団四季で上演中のオリジナル・ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の出演俳優6名(ベン役の田邊真也さんと山下啓太さん、エイミー役の鳥原ゆきみさんと岡村美南さん、タング役の長野千紘さんと安田楓汰さん)による座談会の第3弾。今回は長いコロナ禍に、それぞれの「救いとなった物語」について大いに語ってくださいました。
言葉への探求心を再確認した小説の朗読
――コロナ禍でより多くの人が「物語」を求めています。本、舞台、映画など何でもいいのですが、ご自身のなかで救いとなった物語があったら教えてください。
田邊
僕は本を読むのが大好きなんです。加えて最近は、名作文学の朗読をよく聴いていて、先日は幸田露伴の『五重塔』を聴きました。四季の創立メンバーで、僕が尊敬してやまない日下武史さんの朗読です。
日下さんの声で聴くと、源太と十兵衛の師弟関係や男気、見栄というのがより浮き上がってきます。嵐のシーンなんかも爽快で、僕が描いたイメージより色鮮やかに、ぐいぐいとスピード感をもって物語に引き込んでくれる。
俳優というのは言葉にイメージをのせて話しますが、そのお手本として聴いているところもあります。いかに深いイメージをのせて話せるかという芝居の訓練にも使えて、本当に有意義な時間です。
劇団四季の俳優である以上、言葉に対する探究心はやはり必要で、大事にするべきだということにも改めて気づかされました。コロナ禍で舞台が中止になったり、誰かが陽性になったと知ると、俳優としてすごく不安になります。でもこの朗読を聞くと無心になれるし、自分が目指すべきところに集中できる。そういった意味で、僕にとって救いとなりました。
とはいえ、耳で聴くだけじゃダメなんですよね。同じ物語を耳で聴いて、今度は自分で読むというのを交互にしないと意味がないんです。
全員
すごい……。さすがです。
田邊
あと映像では、アフガニスタンで医師として生きながら、ついに銃弾に倒れた中村哲さんのドキュメンタリー『良心の実弾』が心に残りました。「議論するよりも行動に移せ」「できないことを考えるよりは、どうしたらそれが実現できるか考えろ」という言葉があって。コロナの時代に、現在の環境に文句を言うのではなく、今自分ができることを見つめ直すべきだと、そう感じました。
山下
僕はあまり本は読まないんですが、今回再読した『ロボット・イン・ザ・ガーデン』がやはりよかったです。シリーズものもすべて好きで、さまざまな展開に「嘘でしょ」と思わず言ってしまうことも少なくないし、本当に面白いんです。俳優として作品に関わったというだけでなく、自分の長い人生のなかでこの物語は特別なものになると感じています。
それから、ずっと僕の救いになっているのがディズニーのアニメーションです。子供っぽいような気もして、少し恥ずかしいんですけど(照)。
この仕事をしたいと思ったのも高校生の時に『リトル・マーメイド』のアリエルとか『アラジン』のジャスミンとか、自分の信念を貫く彼女たちの物語が好きだったから。また『アナと雪の女王』など、愛をいろんな捉え方で物語にしているのもいいですね。
最近はサブスクで、携帯やテレビなどで気軽に、どんな時も観られます。ディズニーアニメーションは夢を抱いていた10代の自分を思い出してエネルギーをもらえるという意味でも、救いとなっています。
鳥原
私は幼い時からずっと本を読んでいて、いつも必ずそばに物語がありました。上京する時に、持っていけないからと本はほとんど手放してしまったけれど、今は電子書籍があるので便利ですね。
そのなかでひとつ選ぶとすれば、20年近く読んでいる漫画『プラネテス』です。群像劇なんですが哲学的で、読むたびに違う印象を受けます。あとはやはり漫画の『チ。』も考えさせられます。15世紀のヨーロッパを舞台に、その頃に禁じられていた地動説を命がけで研究する人たちの信念や生きざまを描いた物語なんです。
舞台のエネルギーの循環や交感が救いに
岡村
私はラジオが昔からすごく好きで。眠れない時や掃除をしている時にいつも聞いています。コロナ禍で出会って、今ハマっている『OVER THE SUN』という Podcast 番組があります。
例えば「夫婦の離婚について募集します」と配信で言うと、リスナーからリアリティに満ちた話がたくさん来るんです。「こんな夫婦がいるんだ」「こんな別れ方があるのか」と今回の舞台で役を深める際にも、この番組で聞いた話をエッセンスにして掘り下げていったところもあります。
それから、私にとって救いといえば、やはり舞台です。2年前の第1波の時に『マンマ・ミーア!』の開幕が延期になって。すべての舞台が中止になり、自宅待機するしかなかったので、舞台から完全に離れた日々は本当につらかった。
その後久しぶりに舞台に立った時に、舞台の持つ独特のライブ感やエネルギーの循環というものを感じて、お客様と交感できる舞台というものにすごく感謝したし、だから好きなんだとも思えました。
ステイホーム期間中にはストリーミング配信でいろいろ観て、楽しませていただきましたが、やはり舞台に代わるものはないなと強く実感しました。
長野
高校生の頃に、胃に穴が開くほど悩んでいた時期があって、友達から『チーズはどこへ消えた?』という本をもらったんです。迷路のなかにチーズが置いてあって、ずっと待っているネズミと、リスクを承知で迷路のなかにチーズを取りに行くネズミがいる。
そのネズミたちの物語とともに、自分の今の状況を浮き彫りにしてくれるし、さまざまなことを自分で乗り越えていこうという提案もしてくれるんです。なので行き詰まった時には「あー、チーズがない」と思ってよく読み返します。そのたびごとに新しい気づきがあるので、もう数え切れないくらい手にしていますね。本にマーカーをひいたり、付箋を貼ったりしているので、ものすごく分厚くなっています。
安田
僕は少し前に観た『ジョジョ・ラビット』という映画に魅かれました。プロモーション映像が流れた時から気になっていた作品で。第二次世界大戦中のドイツのヒトラー支配下の時代に、主人公の孤独な少年が救いにしていたのが想像上の友だちのヒトラーでした。でもユダヤ人の女の子と出会うことで、自分が教えられていたこととは違う現実があると気づく。それを観て子供の純粋さというのを改めて感じたし、人の話を聞くだけでなく、自分の目で世のなかを見て、感じるものが大事なんだなと痛感しました。
取材を通してもっとも印象に残ったのは、カンパニーの皆さんの家族のような仲の良さ。こちらの質問のひとつひとつに真摯に向き合いつつも、終始笑い声が絶えない明るい現場でした。初演からベンを演じる田邊さんが「ファミリーが増えて心強い」と話していたのも印象的で、本作に関わるキャリアの長さにかかわらず、お互いが認め合い尊敬し合っていること、コロナ禍だからこそ皆で支え合おうという強い思いを感じました。そんな温かさが、舞台からもたっぷりと伝わってくるミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。ぜひ、この機会に劇場でご覧下さい。
(文・構成:鳥海美奈子、撮影:阿部章仁)