映画『TANG タング』× 劇団四季ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』スペシャルコラボ企画☆監督・三木孝浩さん × 演出・小山ゆうなさん特別対談
自分に向き合わせてくれる〝タング〟という存在
2016年に邦訳刊行されて以来、日本の読者に愛されているイギリスの小説『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(デボラ・インストール 著、松原葉子 訳、小学館文庫)。ある出来事から人生の時計が止まってしまったベンの庭に、突然現れた旧式ロボット・タング。二人の出会いと旅、絆、成長を描いた物語です。
本作は、2020年に劇団四季オリジナルミュージカル化、以来再演を重ね現在は63都市を巡る全国ツアー中、愛らしいパペットによるタングが多くの観客を魅了しています。
そして、『TANG タング』として日本を舞台にアレンジして映画にもなりました。主人公・健を演じるのは二宮和也さん。8月11日(木・祝)の全国公開が迫るなか、VFXによるタングの可愛さには、早くも大きな反響と期待が集まっています。
同じ原作から生まれたミュージカルと映画のクリエイターである、映画監督の三木孝浩さんと演出家の小山ゆうなさんの特別合同取材会がこのたび実現。三木さんは舞台、小山さんは映画とお互いの作品を観ての対談となりました。偶然にも、実は二人は早稲田大学の同じ演劇サークルの同期。「すごい久しぶり!(小山さん)」「こんな偶然ある!?(三木さん)」と、それぞれのタングを前に、約25年ぶりの再会に話が盛り上がって……。
舞台と映画、お互いの作品を観て
三木
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を『TANG タング』という映画にする上で、イギリスの原作を日本人のキャラクターにかえて日本の話に落とし込まなければならなくて。原作の世界はファンタジックで寓話的。少しデフォルメされた世界観をイメージしていたので、舞台はどうデフォルメするのかを参考にさせてもらえればと思いました。すごく素敵な舞台で、特に面白かったのはタングの動かし方。こういう動きをすると観客は笑うんだと、とても参考になりました。タングの首が伸びるところは面白いなと思って、映画でも使わせてもらいました(笑)。あと、舞台では二人の演者がタングを動かしているところに意味があるなと。一人で動かしていると、その人の感情が乗っかりすぎてしまう。二人だからこそどちらでもなく、タングというキャラクターが浮き立つのかなと思いました。
小山
私は三木さんの『僕等がいた』が大好きで何回も観ているし、三木さんが映画を撮っていることを知ってからは、作品を追いかけていました。だから三木さんの映画という楽しみと、そして私たちの同期の小手伸也さんが出ていて(笑)。
三木
あ、そう、もう一人! 小手くんも同期でね。
小山
そう、新人公演を一緒にやったんです。あと、実は映画の題字を作った方も同じサークルの方で。それもあって、すごく楽しみに観ました。最初は嬉しすぎて冷静に観られないくらいでしたが、そのうちどんどん惹き込まれて。タングへのシンパシー、タングの魅力が舞台と全然違う形であるなと思って。例えば舞台でも「目を光らせられないか?」と思って、スタッフ間でたくさん話し合ったんですけど、客席からわかりにくいし、パペットが重くなってしまうので諦めました。それが映画では実現していて、映像表現ならではだな、と。あとは「日本に置き換えても行けるんだ」という発見もありました。
三木
他にも舞台で参考にしたのが、東京の場面。映画で日本に話を置き換えるなかで、この外国人から観たオリエンタルな感じを表現できたらと思いました。それから、少し未来の話だけれどもちょっとレトロでアメリカンな雰囲気もあるところ。そこは映画でも参考にしたいなと思いました。
小山
私は映像でしか出来ない表現に惹かれたので、舞台の参考には出来ないんですけど(笑)、最初に健とタングの絆が生まれる場面や、クライマックスのドキドキさせられる場面の二宮さんのお芝居もすごかった。あと、小手くん! すごく良かった。最初に出てきた時は、『ノーカントリー』のハビエル・バルデムみたいって。
三木
髪型がね(笑)。
原作の印象について
小山
夫婦の関係がすごくリアルに描かれていたりして、日本でミュージカル化するのにわかりにくそうなことは感じませんでしたね。あとはイギリス人独特のユーモアを感じました。そもそもイングリッシュガーデンにロボットがいる、ということ自体ユーモアだと思いますし。デボラさんの子育ての経験から生まれたリアリティと、ロボットが登場するという遊び心のバランスがとても絶妙だなと思いました。
三木
デボラさんご自身が日本が好きなんだなと思いました。僕らが観てきた鉄腕アトムやドラえもんのように、日本人的にもシンパシーというか、ロボットと人間の友情というテーマが違和感なく受け入れられて。イギリスの小説ということでちょっと構えてたんですけど、すっと入ってきましたね。そしてロボットは出てくるけれど、タングがある意味で狂言回し的で、まわりの人間の成長物語になっているなと。いろんなところを旅するけれど、描く世界は狭いというか、身近な人と人との関係性の話に終着するところがすごく素敵だなと思いました。
苦労したところ
小山
舞台はみんなで作るものなので、行き詰まっても誰かが助けてくれる。そういう意味では苦労はなかったんですけど。ミュージカルの歌って、基本的には隠された気持ちを吐露するもの。でもタングにはそんなに隠されたものがないので(笑)、クリエイター同士で相談した結果、タングはあまり歌わず、その分まわりの人が歌うことになりました。そういう意味で、ミュージカルとしてどう成立させていくかは、試行錯誤がありましたね。でも、タングが歌うとお客さまがドキッとする、としたかったので、そのタイミングをどこにするかは重要でした。
三木
映画のタング自体は3DCGなので、役者もカメラマンもみんなが、そこにいるであろうタングを想像しながらの撮影になりました。タングの声は事前録音したものを現場で使ったのですが、タングの動きをどう想像するか、それに対してどう演技をしていくのか、その足並みを揃えるのが大変で、普段はやらないのですが今回はアニメのように全カットの絵コンテを描いて撮りました。
小山
二宮さん、すごいですよね。タングがいないところで演技しているんですものね。
タングの表現の工夫
三木
実写版にするのにタングの大きさをどうするかは悩みました。舞台のタングも参考にしましたが、実写でそのサイズ感だとちょっと大きいかなと思って、最終的なサイズを決めるのは苦労しましたね。
小山
舞台ではパペットデザイナーさんとも相談して決めました。俳優が操作するほどよいサイズ感と、実際に客席から目の動きまでキャッチできるかを検証しながらでした。
三木
映画ではその点はクローズアップが出来るからね。あと、タングの感情をどこまで見せるかも悩みましたね。人ならざるものなので、観客の想像する部分も残したい。でも感情を出さなさすぎても可愛さが出ないしつまらないなと。あとは健と歩くときのスピード感をどれくらいにするか、とか。映画では、6~7歳くらいの男の子をイメージしていますね。
小山
舞台のタングはもう少し小さくて、3~4歳くらいのイメージです。
「ここを見てほしい!」ポイント
三木
いろんな場所場所で変な人が出てきます(笑)。京本(大我)くん、奈緒ちゃん、かまいたちさん……みんなクセがある。そのキャラクターたちのやりとりを楽しんでもらいたいですね。とても彩りのあるキャラクターたちです。もちろん、健とタングのやりとりも見どころです。
小山
舞台は一人の俳優がいろいろな役をやっています。どこを観るのも自由なので、そこを楽しんで頂ければと思います。
キャスティングについて
三木
こういうファンタジーだからこそ、むしろ演技力が問われるだろうと思いました。特に健と(妻の)絵美(満島ひかりさん)の二人のお芝居は、CGキャラクター相手にキャッチボールが出来ない中で感情豊かに表現しなければならない。まさに個人の芝居の技量が問われるし、俳優に負荷がかかるとも思っていました。すごく印象的だったのが、二宮さんが撮影前に「いないタングとお芝居することで、タングを映し鏡にして自分の芝居を見つめ返すきっかけになるんじゃないかな。チャレンジングだし面白いですね」というようなことをおっしゃったんですね。まさにこの映画は健がタングを通して自分を見つめ直す物語。そのマインドがシンクロしていたので、「これは行ける!」と確信しました。
小山
劇団四季は、もちろん俳優の皆さんは歌も踊りもレベルが高いのですが、オーディションの時に脚本の長田育恵さんと、「俳優さん自身の人生が透けて見えてくるといいね」と話していました。初演からベンを演じてこの作品を支えてくださっている田邊真也さんは、オーディションでの歌もダンスもお芝居も素晴らしかったんですけど、他の方のオーディションを待っている間に、紙で作られた仮のタングを動かしている様子をすごく楽しそうにニコニコしながら見ていて。その姿が素敵で。「この人ベンだ!」と思いました。
タングというキャラクターの魅力
三木
何も出来ないところですかね。何も出来ないからこそ愛おしい。助けてくれるわけでなくただそばにいてくれるという、犬や猫のような。でも僕たちが犬や猫に話しかける時って、彼らを介して実は自分に話しかけていたりしますよね。タングも、さっきの二宮さんのお話じゃないけれど、タングと向き合うことで自分を見つめるような、そんな存在だと思います。
小山
そうですね。タングは出来ないことも多くて、歩くのもゆっくりだから稽古の時も舞台からはけるのにすごく時間がかかって(笑)。最初は「どうしよう、お客さんはその間ずっと待ってるのかな」って不安になりましたけど、「待って、その価値観は本当に正しい?」と自分に問い直す機会になりました。舞台では最後にタングが「ようこそ、この世界へ」って言うんですけど、私は毎回そこで感動して。映画を観たときも思いましたが、この世界が美しいということとか、私も忘れていたシンプルで大切なことに立ち返らせてくれる存在です。
原作ファンへのメッセージ
三木
気づきを与えてくれる存在ってすごく大切。僕も子どもを持って、最初はこのスピードに合わせなきゃならないのかって思ったけど、合わせないと見えてこないことがあることを、すごく実感しました。映画を通してそこを共有して頂ければ、と思います。
小山
原作ファンの方たちの思いがわかるので、舞台を楽しんでもらえるかと不安もありましたが……。ぜひ、舞台も映画も楽しんでくださると嬉しいです!
徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒。
2000年よりミュージックビデオの監督をスタートし、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005/最優秀ビデオ賞、SPACE SHOWER Music Video Awards 2005/BEST POP VIDEOなどを受賞。以降、ショートムービー、ドラマ、CM等、活動を広げる。
JUJU feat. Spontania『素直になれたら』のプロモーションの一環として制作した世界初のペアモバイルムービーでカンヌ国際広告祭2009/メディア部門金賞などを受賞。
2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。 長編2作目となる映画『僕等がいた』(2012)が、邦画初の前・後篇2部作連続公開。以降では『陽だまりの彼女』(2013)、『ホットロード』(2014)、『くちびるに歌を』(2015)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)など、毎年コンスタントに劇場公開映画作品を発表している。
ドイツ・ハンブルク生まれ。早稲田大学第一文学部演劇専修卒。
劇団NLT演出部を経て、「雷ストレンジャーズ」旗揚げ。以降「雷ストレンジャーズ」全作品の上演台本・演出を手掛ける。2017年世田谷パブリックシアター『チック』(ヘルンドルフ作)にて翻訳/演出、小田島雄志・翻訳戯曲賞、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。2018年『父』(ストリンドベリ作)にてサンモールスタジオ最優秀団体賞受賞。
主な翻訳/演出作に東宝『ローズのジレンマ』(ニール・サイモン作)、世田谷パブリックシアター『愛するとき 死するとき』(カーター作)。演出作に雷ストレンジャーズ『フォルケフィエンデ―人民の敵―』(イプセン作)・『群盗』(シラー作)、新国立劇場『願いがかなうぐつぐつカクテル』(エンデ作)、PARCO PRODUCE『ブライトン・ビーチ回顧録』(ニール・サイモン作)、KAAT『ラビット・ホール』(デヴィッド・リンゼイ゠アベアー作)等。
(取材会撮影/上原タカシ 黒石あみ)