今月のイチオシ本 【エンタメ小説】

『私が誰かわかりますか』
谷川直子
朝日新聞出版 本体1,500円+税

 高齢化社会どころか、超高齢化社会となっている今、私たちが直面しているのは「介護」の問題だ。とりわけ、昔からの風習が根強く残っている地方では、「長男の嫁」がその矢面に立たされている。本書はそんな「長男の嫁」である桃子、桃子の友人の恭子、さらには桃子の夫の部下である瞳、の三人を中心に"嫁たちの介護バトル"を描いた物語だ。

 東京でフリーのイラストレーターとして働いていた桃子は、離婚の痛手からようやく立ち直った頃、九州への一人旅で知り合った隆行と遠距離恋愛の末、再婚。隆行の実家のある九州の地方都市・鳩ノ巣で暮らして五年になる。鳩ノ巣から車で三十分ほどの農村部・飛梅には隆行の両親が健在で暮らしており、東京から来た=他所者ではあるものの、それなりに隆行の実家や親戚とのつきあいをこなしてきた桃子だったが、隆行の父・守が認知症を発症し、「長男の嫁」としての責務が降りかかってくることに。

 恭子は桃子と美大時代の同級生で、桃子と同業のイラストレーター。三年前に義母が亡くなったため、夫の実家に移り住んで認知症の義父の世話をしている。東京で暮らす恭子もまた「長男の嫁」であり、認知症の舅の介護の愚痴を言い合えるのは桃子ぐらい。

 瞳は、数ヶ月前に三十九歳で高齢出産をしたばかりで、気力も体力もへろへろになっている。日中、子どもを保育園に預けて働いてはいるものの、産後鬱のような状態で、子育てに自信が持てない。そんな時、夫の敏彦から、初期の認知症である母親を引き取ることにした、と一方的に告げられる……。

 三人が直面する介護がリアルで、読んでいて胸が詰まる。桃子の舅、恭子の舅、そして瞳の姑、それぞれに症状とレベルは異なっているものの、ある意味"不治の病"でもある認知症という病気が、介護する側の精神を徐々に蝕んでいくその様は痛ましい。

 けれど、物語はその先を照らしだしていて、そこがいい。綺麗事だけでは済まない介護と日々向き合っている、全国のお嫁さんたち、本書をぜひ!!

(文/吉田伸子)
〈「STORY BOX」2018年10月号掲載〉