日明恩
九月三十日午前五時半、日の出とほぼ同時刻に槌田(つちだ)は晴海客船ターミナルビル二階にある乗降客コンコース前に立ち、目の前に停泊する巨大なクルーズ船セブンシーズ・ゴールデンパールを見つ
「おやおや、これは。横川(よこかわ)さん、お見事です」 ビニールシートから取り出した腕時計を一目見るなり泉水(せんすい)が言った。 「やったー!」 横川が両手を天に突き上げて叫ぶ。
東京メトロ南砂町(みなみすなまち)駅三番出口から地上に出る。むわっとした熱気に全身を覆われて、思わず槌田(つちだ)は顔を顰めた。七月はおおよそ暑い。だが今年の暑さは例年以上だ。まだ朝の
午後八時を回って第一班の担当が終わり、さすがに槌田(つちだ)は空腹を感じる。 「遅くなりましたが、夕食にしましょう」と英(はなぶさ)に言われて二つ返事で同意する。 「どこか店に入ります
「このあとですが、どうしますかね」 腕時計を見ながら英(はなぶさ)が思案顔で言う。 時刻は午後六時四十分になろうとしていた。 今回の研修は旅具通関部門と同じく二十四時間勤務となって
検査を終えた渡航客は次々と出口から出て行った。ブースに連なる列もぐんぐん減っていく。先ほどのようなケースを除けば、一人当たりに掛ける時間は三十秒にも満たない。中には十秒も掛けずに検査を
電車が地下に入って視界が暗くなった。車窓から見えていた景色が消え、かわりに背広の男が映し出される。体格は悪くない。顔立ちもそこそこ整っている方だろう。けれど覇気は感じられない。これが今