桐江キミコ

滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ
 外は中よりもあたたかいぐらいで、桃色に染まった、重くてあたたかい空気が地表近くにたまっており、煙ったみたいな感じだった。銀子さんが三ツ葉とハマグリの入ったおわんに、ポットの潮汁をつぐ、その、とぽとぽ
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ
 こうして、三郎さんは、1月で長年働いた高柳商店をやめた。少々退職金をもらい、社長からは高柳の記念品をもらい、最後の日には、仕出し屋の花菱(はなびし)の幕の内弁当でねぎらってもらったらしい。  2月の
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ
 それからというもの、高柳商店に来るたびに、三郎さんのようすを観察するようになった。相変わらず、会社の人にはよく使われている三郎さんだったけれど、三郎さんの周りには、別の時間が流れているみたいに見えた
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ
 高柳商店にしばらくいると見えてきたのだが、三郎さんは、銀子さんが言うまでもなく、本当に役に立っていた。「三郎さん、ちょっと頼んじゃっていいかな」というのが、三郎さんに仕事を頼むときの銀子さんの口癖だ
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ
「奥さんは、羽振りがよかったときは、お茶やお花の教室に通ってるだけの優雅な社長夫人だったのに、今はどこかでパート勤務してるみたいよ。もう、それだけで、会社の台所がどんな状況か、わかるわよね」  おしぼ
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ
「三郎さんって、刑務所にいたことがあるんだってよ」  まゆが言ったことがある。 「何でまた刑務所なんかに入ったの」 「そりゃ、悪いことをしたからでしょう、普通、いい人っていうのは刑務所にはいないよ」
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 特別編(小説) 三郎さんのトリロジー①
 小学校の高学年のころ、友達のまゆと、近くの教会の日曜学校にしばらく通っていたことがあった。別に信仰に関心があったからではなくて、日曜学校のあとに出るおやつに釣られて、のことだった。しかも、大したお
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口⑤
「もう読む本がなくなったから、すぐに送ってくれ」と催促されて送った最後の便が着いたかどうか心配だったけれど、USPSのサイトで追跡したら、亡くなる3日前に届いたことがわかった。読めはしなかったろうけれ
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口④
 ミスター・アロンソンではないけれど、最近、ちょっと何かをするのが億劫(おっくう)になって、これもやっぱり年を取りつつあるせいかな、と思う。以前は、迷ったとき、取りあえずはやってみようというスタンスだ
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口③
 でも、人付き合いをいっさいしない、偏屈の、アマノジャクの、ネクラのひねくれガンコじいさんでも、やっぱり人恋しいのだ。なぜなら、外へ出かける気分になったときに散歩の場所に選ぶのは、木立ちや噴水のある緑
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口②
 そういえば、仕事を始めては全然やる気がなくて辞めて(あるいは辞めさせられて)、かと言って毎日ぶらぶらする生活も退屈で、鬱で悩んでいたトーマスなんか、前立腺ガンと診断されたときに鬱がもっとひどくなるか
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第7話 カゲロウの口⑤
「年老いたら苦しいことばかりの連続だ。神は、年寄りを惨めにさせて、早く人生を終わらせたくなるよう仕向けるという慈悲深いことをなさる」  とは、ミスター・アロンソンの口癖だ。  ミスター・アロンソンは、
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第6話 太った火曜日④
 難民のシスターがどうやって東南アジアからミッドウエストの草原の真ん中にぽつんと建った修道院に流れ着くことになったのか、ほかのシスターからいきさつを聞いたかもしれないけれど、聞いたとしたら、すっかり忘
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第6話 太った火曜日③
 数年前のこと、ある神父さんと、飲みに行ったことがある。この神父さんは大学の同級生で、大学時代に信仰心に目覚めて、信仰の道をまっすぐ突き進んでいった人だ。  少々アルコールでも入ったらいろんなことが聞
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第6話 太った火曜日②
 唯一、歩いて行ける近所にあった親戚の家には、飛び石や蹲踞(つくばい)や石灯籠(いしどうろう)のある、苔(こけ)むしてひっそりした和風の庭と、ヒャクニチソウやヒマワリやホウセンカの咲く、明るくワサワサ
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第6話 太った火曜日①
 半年ほど前のこと、いきなり、ハーレムに行ってくれ、と福祉団体から電話がかかってきて、ハーレムの子供保護センターに行ったことがあった。アポの時間よりずいぶん遅れて現れたのは、オリーブ色の肌をして、髪を
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第5話 鳴きまね名人③
「忙しい、忙しい」と笑田さんは口グセのように言っているけれど、ほんとはそんなことはない、なぜなら、笑田さんは、鳥の話をよくするからだ。いろいろな鳥をじっくり観察して鳴き分けができるようになるほど、笑田
滞米こじらせ日記~愛しきダメな隣人たち~ 桐江キミコ 第5話 鳴きまね名人②
 何年前のことだったか、日本から帰る飛行機の中で、年配の日本人に出会った。その人は、わたしの隣にいた台湾人の女の子のそのまた向こうの席に座っていて、台湾人の女の子に向かって、間にある空席を使うように身