宮﨑真紀『おばあちゃん、青い自転車で世界に出逢う』

宮﨑真紀『おばあちゃん、青い自転車で世界に出逢う』

90歳のおばあちゃん、哲学の旅


 メキシコのオアハカでひとり暮らす90歳のマルおばあちゃんが、会ったこともなかったたった1人の孫を探しに、ターコイズブルーの自転車に乗って、海辺の町ベラクルスまで450キロの道のりを旅する──そう聞いただけで、どんな冒険が待ち受けているのかと、わくわくしませんか? でも、この小説は一筋縄ではいきません。これは、つらい過去を持つおばあちゃんが自分の人生を一巡りする、深遠な思索の道行きでもあるのです。

 著者のガブリ・ローデナスさんは哲学の博士号を持ち、現在もスペインのムルシア大学で哲学を教えている方で、この小説は自分の人生哲学だと言っています。だからでしょうか、読み進めていくうちに、話しているのはおばあちゃんでも、いつしか著者の言葉のようにも、あるいはどこか天上からの声のようにも聞こえてきて、不思議な気分になります。誰もが人生についてじっくりと考えたくなるはずです。

 とはいえ、眉間にしわを寄せて読むようなお話ではなく、やさしくて包容力があり、でもどこかすっとぼけたところもあるマルおばあちゃんが、道中さまざまな人と出会いながら不可思議な運命に導かれていく、寓話的な味わいもある物語です。出会うのは、オタクゆえにいじめられている少年、父親のいない子を産んでしまった少女、アルコール依存症のお金持ち、引きこもりの芸術家、死んだ妻を忘れられずにいる老人など、みな何か重荷を背負っている人ばかり。だけど、おばあちゃんと話をするうちに希望が生まれます。それは、この物語を読むわたしたちも同じ。本を閉じたとき、きっと前向きな気持ちになっているでしょう。

 物語の重要アイテムの1つになっているのが、スペイン語圏でよく食べられているお菓子、アルファホール。ビスケットのあいだにドゥルセ・デ・レチェというミルククリームを挟んだお菓子で、チョコレートでコーティングしたものをよく見かけます。日本にはまだあまり入ってきていないと思うのですが、ちょっとおいしそうでしょう? ぜひおばあちゃんの温もりある甘味を想像しながら読んでみてください。

 


宮﨑真紀(みやざき・まき)
スペイン語・英語翻訳家。東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。スペイン語訳書にフェリクス・J・パルマ『時の地図』、トニ・ヒル『死んだ人形たちの季節』、マリーア・ドゥエニャス『情熱のシーラ』、R・リーバス&S・ホフマン『偽りの書簡』、英語訳書にキム・エドワーズ『メモリー・キーパーの娘』、コンドリーザ・ライス『ライス回顧録』(共訳)などがある。

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おばあちゃん、青い自転車で世界に出逢う

『おばあちゃん、青い自転車で世界に出逢う』
著/ガブリ・ローデナス 訳/宮﨑真紀

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