今野 敏『ボーダーライト』

今野 敏『ボーダーライト』

21年ぶりのオズヌ降臨


『ボーダーライト』には、呪力をあやつる謎の高校生が登場します。そう、『わが名はオズヌ』のオズヌ(役小角)です。同作が出版されたのは2000年ですから、21年ぶりの降臨になります。ずいぶんとご無沙汰でした。

 でも、今作は単なる続編というわけではありません。『オズヌ』の筋書きを簡単にいえば、神奈川県警少年捜査課の高尾にオズヌが協力しながら、悪徳政治家や土建屋を成敗するというものでした。といえば、現代ものに聞こえるけど、重きを置いたのは、1000年以上前に修験道開祖だったオズヌの来歴です。ジャンルでいえば伝奇小説でした。

『ボーダーライト』はあくまで警察小説をベースにして、そこに超越的な力をもつ高校生が捜査協力をする設定で書いています。だから高尾のキャラが前作以上に色濃く出ましたね。

 私はたくさんのジャンルの警察小説を書いていますが、それぞれのキャラを当然書き分けています。少しタネ明かしをすると、こういうキャラを書きたいからこういう設定にするといった思考で、人物造形は考えていません。むしろ逆です。

 少年を扱う警察官というのは、刑法じゃなくて少年法で動いています。刑法は刑事処分するものだけど、少年法は少年の未来を見越して、保護更生のための処置を下す。だからいくら道を外れた少年・少女だろうと、彼らのことは嫌いになれない。世の中との関わりが「刑事」とは違ってきます。

 だから高尾は、風変わりで一匹狼タイプなんだけど、中身は熱い正義漢という設定が出来上がってきます。理詰めで作っていくんですよ。たとえば「隠蔽捜査」シリーズの竜崎はキャリア官僚で、「安積班シリーズ」の安積は所轄の刑事です。だから周囲で不祥事が起きたときのリアクションは自ずと違ってくるでしょう。

 今回の『ボーダーライト』を描くにあたって、唯一、最初に決めたのが、「歌」を題材にとりたいということでした。この歌が子どもたちを非行に走らせる。男の歌だとつまらないから女性シンガーにした。読んでもらうとわかるんだけど、彼女がそのまま黒幕とはならない。

 実は、最初はこの女性をオズヌと対置させるかたちで物語を考えていました。だけど、だんだん「このキャラいいじゃん」と、愛着が湧いてきましてね。いっそレギュラーにしちゃえみたいな感じです。彼女とは本作が終わっても、再びどこかで出会えるかもしれませんよ。

 ちなみに『わが名はオズヌ』は、国が乱れた時「我はまた、いつでも戻ってくる」という言葉でラストを締めくくりました。ならば、国が乱れたから今オズヌが戻ってきたのか、という話になる。違います。正直にいえば、同じ版元での連載が決まったから再び降臨したというだけ(笑)。それは冗談として、40代で書いたオズヌと60代で書いたオズヌというのは、同じように書いているのだけど、どうしても違ってくるんです。これが自分でも面白かった。

 だから余裕があるなら、2冊通して作品世界を味わってもらいたい。私の20年間の歩みというか、成長というか…そのあたりが自然とにじみ出ていると思うから(談)。

 


今野 敏(こんの・びん)
1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年、「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。東芝EMI勤務を経て、82年に専業作家となる。2006年、『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞を受賞。08年、『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞ならびに第61回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。17年、「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞を受賞。近著に、『わが名はオズヌ』『宗棍』『大義 横浜みなとみらい署暴対係』などがある。

【好評発売中】

ボーダーライト

『ボーダーライト』
著/今野 敏

【NYのベストセラーランキングを先取り!】ピューリッツァー賞を2回受賞したコルソン・ホワイトヘッドの最新作! ブックレビューfromNY<第71回>
【SM小説】美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第37話 消えた部誌の事件――どえむ探偵秋月涼子の登場