【NYのベストセラーランキングを先取り!】ピューリッツァー賞を2回受賞したコルソン・ホワイトヘッドの最新作! ブックレビューfromNY<第71回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの71回目。今回は、1950年代の終わりから60年代にかけてのニューヨーク州ハーレム地区を舞台に、真っ当な生活と裏の社会との狭間でたくましく生きる黒人の姿を描いた小説を紹介します。

<第71回>ピューリッツァー賞2回受賞の著者が描く、ハーレムで生きる黒人たちの光と影


Harlem Shuffle/ by Colson Whitehead
Doubleday, 2021.318ページ. US$28.95.

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2021 年10月10日の週)[1]を紹介する。

1.Apples Never Fall

By Liane Moriarty
Holt

突然母親が行方不明になったとき、ディレイニー家の4人の子供たちのうち2人は、父親がかかわっているのではないかと疑い、残りの2人は父親のせいではないと思った。
(ベストセラー2週目)


2.Jailhouse Lawyer

By James Patterson and Nancy Allen
Little, Brown

アラバマ州エルバは、犯罪と言えばスピード違反や万引きという平和な町だったが、この地の刑務所はいつも受刑者でいっぱいだった。不思議に思って事情を探り始めた若い弁護士は、この刑務所に収容される羽目に陥ってしまった。
(ベストセラー初登場)


3.Harlem Shuffle

By Colson Whitehead
Doubleday

子供の時に母を病気で亡くし、やくざ者の父に育てられた黒人レイ・カーニーは、父親のようにはなるまいと、大学も出てニューヨーク市ハーレムに家具店を開いている。新しい家具だけでなく中古家具も扱い、良心的な商売をしているが、利益を上げることはなかなか難しかった。そこで兄弟のように育った従弟のフレディが時々持ってくる素性の知れない宝飾品や時計を、知り合いの宝石商にこっそり持ち込み現金化する裏の仕事もしていた。ある日、ついにフレディから強盗計画に参加するよう誘われ……。
(ベストセラー2週目)


4.Under the Whispering Door

By TJ Klune
Tor

葬式に現れた死神に導かれたウォレスは、真っ直ぐ死の世界には行かず、7日間だけ生きることを許された。
(ベストセラー初登場)


5.Billy Summers

By Stephen King
Scribner

イラク戦争で勲章を受けた元軍人で、世界一と言われる射撃の腕を持つ殺し屋ビリー・サマーズは、《悪者》を標的にする仕事しか引き受けてこなかった。この仕事から足を洗いたいと思ったビリーは、最後の仕事に挑んだ。
(ベストセラー8週目)


6.Vince Flynn: Enemy at the Gates

By Kyle Mills
Emily Bestler/Atria

ミッチ・ラップは何代もの合衆国大統領に仕えてきたが、狡猾で独裁的な現大統領アンソニー・クックは今までの大統領と違い、ラップやCIA長官のアイリーン・ケネディを全然信用しなかった。ヴィンス・フリンの死後も継続する「ミッチ・ラップ」シリーズ20作目。
(ベストセラー2週目)


7.Beautiful World, Where Are You?

By Sally Rooney
Farrar, Straus & Giroux

小説家アリスは倉庫で働くフェリックスと知り合い、ローマへ一緒に旅行しようと誘った。アリスの親友のアイリーンは幼馴染のサイモンとよりを戻した。アリス、フェリックス、アイリーン、サイモンの関係はどうなる? 彼らは《美しい世界》を見ることができるだろうか?
(ベストセラー3週目)


8.Bewilderment

By Richard Powers
Norton

宇宙生物学者でシングルファーザーのセオ・バーンは、優しい性格でありながら感情のコントロールがうまくできない一人息子ロビンに、ニューロフィードバック療法(脳波を指標とする精神トレーニング法)を試してみようと思った。
(ベストセラー初登場)


9.The Last Thing He Told Me

By Laura Dave
Simon & Schuster

オーウェン・マイケルズは失踪する前、結婚14か月目の妻ハナ・ホールに、「彼女を守ってくれ」と書いたメモを残した。《彼女》とは、オーウェンと前妻との間の16歳の娘ベイリーであるとハナにはすぐわかった。オーウェンとの連絡が取れないまま、ハナは連邦保安官やFBI捜査官の訪問を受けた。夫の過去に対する謎が深まり、ハナとベイリーは、オーウェンの過去を探り始めた。
(ベストセラー21週目)


10.Daughter of the Morning Star

By Craig Johnson
Viking

インディアン部族警察の署長ロロ・ロングの姪で、高校の女子バスケットボール・チームの花形選手ジャヤが殺人予告を受けた時、ロングはアブサロカ郡シェリフのウォルト・ロングマイヤーに相談した。「ウォルト・ロングマイヤー」シリーズ17作目。
(ベストセラー初登場)


Billy Summers (8週目)とThe Last Thing He Told Me(21週目)が先月からリストに残っている。ロングセラーの兆しのThe Midnight Library (43週目)と先週このコラムで取り上げたThe Paper Palace(12週目)がそれぞれ12位と15位にランクされている。それ以外は新作が目立つ。

今月は、先週2位で初登場し、今週3位のHarlem Shuffleを取り上げたいと思う。著者のコルソン・ホワイトヘッドは、2016年10月、このコラムで紹介したThe Underground Railroad(邦題:地下鉄道)の著者であり、彼はこの作品で、ピューリッツァー賞(2017年、フィクション部門)や全米図書賞など多くの賞を受賞している。アメリカ黒人史上実在した奴隷解放のための市民ネットワーク《地下鉄道》をベースにした小説は、エンディングでは希望を示唆しながらも、そこに至る過程は重く凄惨な内容だった。彼は2019年のThe Nickel Boysで2回目のピューリッツァー賞(2020年、フィクション部門)も受賞している。最新作Harlem Shuffleでは、1950年代の終わりから60年代にかけてのニューヨーク州ハーレム地区を舞台に、真っ当な生活と裏の社会との狭間でたくましく生きる主人公を生き生きと、時にユーモラスに描いている。

[1]“A version of this list appears in the October 10, 2021 issue of The New York Times Book Review. Rankings on weekly lists reflect sales for the week ending September 25, 2021.” (このベストセラー・リストは2021年10 月10日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2021年9月25日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

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