# BOOK LOVER*第10回* 加藤シゲアキ
高校一年生の冬、深夜バスでスノーボードに行く時に、眠れないからと買っていったのが金原ひとみさんの『蛇にピアス』。当時、綿矢りささんとの芥川賞ダブル受賞で話題になっていたので軽い気持ちで手に取ったが、今でも鮮明に内容を記憶しているほど、自分にとって重要な本となった。
本には読んだその瞬間面白い、という本とずっと心に爪を立てて残っていく本の二種類があるが、この本は後者。多感な時期に読んだせいもあるが、とにかく衝撃的で、大人になってから何度もこの作品を思い返して、僕自身の創作に大きな影響を与えてくれたことを実感している。
描かれているのは過激でスリリングな世界なのに、ヒロインのルイの「身体改造」には自傷行為のような弱さも感じる。他者との出会いの中で描かれる人間の揺らぎは生々しくリアルで、否応なく惹きつけられた。個性的な文体で表現されていることもあり、それまで知らなかった〝文学〟というものに初めて触れ、摑んだような読書体験だった。今改めて見るとものすごく薄い本で、このページ数であの濃密な世界を切り取ったのか、ということにも驚嘆を禁じ得ない。
舌にピアスをあけたり刺青を彫ったりという行為は、僕自身は痛そうだしまったくやりたいとは思わないけれど、目を背けたいとも思わない。自分の中にもそういう部分はゼロではないし、何かのきっかけでそういう人生を歩む可能性もあったかもしれない。
普段本を読む時には、たとえ登場人物に共感ができなくても、人間が有機的に描かれている作品に〝共鳴〟することが多い。単純にハッピーな作品よりも、自分自身の中に落ちていくような作品にどうしても惹かれてしまう。
ものを書くという作業は、外面から内面に向けて、一枚ずつ服を脱ぐように自分の奥を見つめていく作業だ。それは決して楽ではなく、時に痛みや苦しみを伴う。「身体改造」を繰り返していくルイの生き方にも、どこか似たものを感じる。
『ピンクとグレー』でデビューしてから十年目の節目となる今、自分の作家活動を振り返っている。ふと気づけば「頭に画があるけれど言葉にできない」ともどかしく思う瞬間がなくなっていて、十年続けてようやく自分が思ったことをちゃんと書けるようになったという実感がある。
自分が生きてきたことのすべてが作品になる作家という仕事は本当に面白くて、今のところやめる気はしていない。飽き性だから一つの作品を書き上げると全然違うところへ行きたくなるし、書くもののジャンルも決めたくないけれど、読んだら加藤シゲアキだとわかるものを書き続けていきたい。
加藤シゲアキ(かとう・しげあき)
1987年生まれ。大阪府出身。青山学院大学法学部卒。NEWSのメンバーとして活動しながら、2012年『ピンクとグレー』で作家デビュー。著書に『閃光スクランブル』『Burn.‐バーン‐』『チュベローズで待ってる』『オルタネート』『できることならスティードで』など。
『1と0と加藤シゲアキ』
加藤シゲアキ 文・編(KADOKAWA)作家生活10周年記念の、豪華クリエイター陣と共演するスペシャルブック。小説「渋谷と一と〇と」、ショートフィルム『渋谷と1と0と』撮影現場レポート、2.5万字超ロングインタビュー、撮り下ろしグラビア、書店員座談会、加藤シゲアキリクエストによる作家競作などを収録。
〈「STORY BOX」2022年10月号掲載〉