# BOOK LOVER*第9回* 上田慎一郎

# BOOK LOVER*第9回* 上田慎一郎

 二十歳の頃、この本に出会った。岡本太郎の名言をまとめた一冊である。

「怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ」「ぼくは絶対に成功しないことを目的にしている」「人生は積みへらしだ」「ぼくは、しあわせ反対論者なんだ」

 常識外れの言葉たち。しかし、人生の本質を突きつけられた気がした。

 高校二年の夏、手作りイカダで琵琶湖の横断に挑戦し、遭難して死にかけたことがあった。それは自分にとって、生の喜びを強烈に感じる体験だった。岡本太郎の言葉でいう「死に対面する以外の生はないのだ」である。

 この本に出会う前から魂は知っていた。人生の本質を。この本を初めて読んだ時、いよいよそれを突きつけられた気がして震えた。涙が溢れた。もう逃げられないと思った。

 世間的な成功や幸せを否定し、金と名誉を否定し、茨の道を選ぶ。この本の言う通りに生きることは難しい。きつい。しんどい。社会を知れば知るほど、そう痛感する。

 しかし、常識に流されそうになった時、楽な道を選ぼうとした時、この本の言葉たちが胸ぐらを摑んでくる。「それでいいのか?」と。茨の道を勧めてくる。「危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ」と。

 茨の道に踏み出す瞬間、生の喜びが溢れてくる。それが自分にとっての幸せだ。

 今更ながら、なんて本に出会ってしまったんだろうと思う。「普通」に生きたい人にはお勧めしません。

 


強く生きる言葉

『強く生きる言葉』
岡本太郎
(イースト・プレス)
熱く、力強く、破壊的。険しい道に挑み続けた芸術家・岡本太郎の思考と哲学のエッセンスを編んだ人生論。

上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
1984年滋賀県出身。2018年、劇場用長編映画デビュー作『カメラを止めるな!』が大ヒット。監督作に『スペシャルアクターズ 』『ポプラン』ほか。

 

キャメラを止めるな!

『キャメラを止めるな!』
低予算インディーズ映画だったにもかかわらず、熱狂的な口コミで社会現象を巻き起こした『カメラを止めるな!』 仏映画リメイク版。
監督=ミシェル・アザナヴィシウス|出演=ロマン・デュリス / ベレニス・ベジョ / 竹原芳子|全国ロードショー公開中
映画公式サイト

〈「STORY BOX」2022年9月号掲載〉

【著者インタビュー】芦沢央『夜の道標』/人間の尊厳や誇りをめぐる新たな視座へと読者を誘う、慟哭のミステリー
◎編集者コラム◎ 『犬も食わねどチャーリーは笑う』市井点線