田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第25回

田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」

「すべてのまちに本屋を」
本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ


 11月21日、2024年最後の読書推進プログラム「読書の時間」出張授業のため、福井県池田町立池田小学校にうかがった。これまでは小学5年生を対象として実施してきた「読書の時間」出張授業だったが、池田小学校の依頼は全校児童69人を対象としての実施だった。

 1年生7人、2年生17人、3年生10人、4年生17人、5年生6人、6年生12人、全部で69人(うち特別支援学級の児童が3人)全員に楽しんでもらうにはどうしたらいいのか。ご依頼をいただいてから何度も議論し準備を重ねてきた。

 NPO法人読書の時間が提供している読書推進プログラム「読書の時間」出張授業は、子どもたちの読書への関心や興味を高め、自発的な読書活動のきっかけづくりを目的としている。一方で、学校図書館に関わる多くの皆さんと連携することで、これまでと違う角度から子どもたちの読書活動をサポートすることを目指している。

 2024年には対象が広がり、NPOメンバーがうかがうのではなく、読書推進プログラム「読書の時間」というツールを活用いただき、地域の皆さんが地域の子どもたちの読書活動を下支えする活動につなげていくことが大切だという考えを進めるべく、ようやくその下地づくりを始めることができた1年だった。

 2024年は、学校図書館に限らず多くの公共図書館にお声がけいただき、公共図書館の司書、職員の皆さんにも読書推進プログラム「読書の時間」を体験いただくことができた。池田小学校の出張授業も、福井県教育庁生涯学習・文化財課の皆さんにご尽力いただき実現した。今後、福井県の様々な地域で、読書推進プログラム「読書の時間」を活用し、子どもたちと予期せぬ本との出合いの場が生まれるきっかけとなったらいいな、と願っている。

 読書推進プログラム「読書の時間」は、「本とは何か」「読書とは何か」を考えるきっかけを創る活動で、これからの社会を担っていく⼦どもたちが「暮らしの中に本がある⼤⼈」に成⻑するきっかけづくりを、様々なワークショップ形式で提供している。今回は、はじめての全校児童での実施だったこともあり、低学年(1年生から3年生)と高学年(4年生から6年生)のグループに分けての実施となった。

 今回ワークショップで使用したのは、「DNP子ども読書活動支援キット」の「本結び(図書分類バージョン)」「本の紹介カード」「本のクイズポスター」だった。

本結び(図書分類バージョン)
■本結び(図書分類バージョン)
本の紹介カード
■本の紹介カード

 読書の時間では、様々なワークショップを用意しているのだが、僕が担当した出張授業で「本のクイズポスター」を使用したのははじめてだった。これまで実施した際の様子は聞いていて想像はしていたのだが、想像以上に盛り上がりを見せ、びっくりした。

本のクイズポスター
■本のクイズポスター

「本のクイズポスター」は、クイズを作ったり、本を探したりするアクションによって本に対する興味が深まり、新しい本に出合えるきっかけにしてもらうことが狙いとなっている。まずは、あらかじめ司書の皆さんに、クイズを作成するための参考になりそうな書籍を選書していただくところからはじまる。様々なジャンルや分類を織り交ぜて用意してもらうことで、それぞれの子どもたちが普段書架から選ばない本に出合うきっかけにもなるのだ。

 今回は、高学年(4年生から6年生)が2人1組となり、司書の皆さんが選んだ30冊程の書籍から1冊を選び、2人でクイズの種を探す作業を行うのだが、クイズ作りを忘れ、本を読み始める子どもたちがたくさんいたのが印象的だった。「そういうことだったのか」「これ知ってる!」「なになに?」と、2人1組で話している姿をあちこちで見ることができた。これまで日常生活の中でなんとなく見聞きしたことを、詳しく記された本を通じて再発見し、理解を深めるきっかけとなってくれたらそれでいい……のだが、「低学年に向けてクイズを作るという大事な任務忘れてない?」とアナウンスすると、イラストあり、ご当地ネタあり、超難問ありと、バラエティに富んだクイズポスターが完成した。

 ポスターの表面にはクイズと使用した本の書名が描かれていて、めくると裏面に答えとヒントが書かれているページ数を記載するようになっている。完成したポスターは、ステージに掲出し、本を元の場所に戻して終了となる。早くできた子どもたちは、他の子どもたちが作ったクイズを解き、分からない時は紹介されている本をめくり、答えを探していた。

「読書の時間」出張授業

 次の時間は、図書室で別のワークショップをしていた低学年が体育館に移動し、高学年のみんなが作ったクイズを解く時間である。まさに、高学年対低学年の戦いである。さすがにヒントなしでは解けない子どもたちが多く、みんな紹介されている本を開き、熱心に調べ、頑張って答えまで辿り着いていた。ひとつひとつのクイズをクリアするごとにスタンプラリーの紙にチェックを入れ、時間内に答えに辿り着いた時の笑顔が忘れられない。

「調べ学習」と言えばそうかもしれないけれど、僕たちは本をもっと身近な存在として活用してもらいたいと考えている。分からないことがあると、ネットでキーワード検索をすればすぐに解答が得られる今だからこそ、まだ自分が何者なのか自覚できていない子どもたちには、積極的に本を活用してもらいたいと思っている。

 高学年の皆さんには、2時間目を使い、本を活用してほしい理由を別のワークショップを通じてお伝えさせていただいた。全国どこの学校でも、この2時間目の途中から子どもたちの意識が変わる瞬間を目のあたりにすることができる。

「なぜ本を読まないといけないのか?」

 NPO法人読書の時間が、読書推進プログラム「読書の時間」で提供したいのは、「なぜ本を読まないといけないのか?」をみんなで考える時間をつくることである。その意味は、100人いたら100通りあるだろう。本の読み方も様々である。しかし、小学生の読書体験には、この時期だからこそ必要な理由がある。それを読書推進プログラム「読書の時間」を通じて伝えてきたつもりだし、これからも伝えていこうと思っている。

「読書の時間」出張授業

「読書欲は、読みたい本との出合いの蓄積から生まれる」

 僕たちの活動のベースとなる言葉だ。読書の楽しみは、読者が自分で本を選択するところから始まる。そう、自分で本を選ぶ楽しみと喜びもまた、読書の一部と言えるのではないだろうか。本の読み方は人それぞれだが、読書は心を開拓し自分の中に創造的で生産的なものを生み出してくれる。読書によって自分が変化し、心に新しく生まれてきたものを育てることや、読み取ったものを日常に結び付けることもできる。

 2024年は、北は北海道から南は沖縄県与那国島まで、様々な地域で活動することができた。2025年は、より多くの学校図書館・公共図書館の皆さんと連携して実施することができたらと考えている。さらには、子ども食堂や学童保育との連携の準備も進めており、子どもたちが集まる場所に本との出合いのきっかけづくりを地道に続けていけたらと思っている。
 

 最後に、そんな活動を続けているNPO法人読書の時間は、現在賛助会員を募集しております。ご支援いただけますと幸いです。
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 2025年もどうぞよろしくお願いします。


田口幹人(たぐち・みきと)
1973年岩手県生まれ。盛岡市の「第一書店」勤務を経て、実家の「まりや書店」を継ぐ。同店を閉じた後、盛岡市の「さわや書店」に入社、同社フェザン店統括店長に。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに活動し話題となる。2019年に退社、合同会社 未来読書研究所の代表に。楽天ブックスネットワークの提供する少部数卸売サービス「Foyer」を手掛ける。著書に『まちの本屋』(ポプラ社)など。


「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」連載一覧

萩原ゆか「よう、サボロー」第81回
採れたて本!【デビュー#24】