吉川英梨『犯罪前夜』

吉川英梨『犯罪前夜』

明日、加害者の親になる


 4月22日発売の『犯罪前夜』は、舞台が2024年。この年は日本の犯罪史の転換点だったと私は考えている。

 闇バイトの凶悪化である。

『「今日は埼玉で」「今日は神奈川で」「今日は東京で」強盗事件がありました』
 テレビをつけると、このニュースばかりだった。

 中には命を奪われた方もいる。私の居住自治体内の事件もあった。
 私はそろそろ生まれて半世紀経つが、これまで「家に強盗が入ってくるかもしれない」という切迫感を持ったことがなかった。
 明日、自分が被害者になるかもしれないという恐怖を初めて抱いた。

 加害者の正体にも驚いた。闇バイト、いわゆる素人だ。背後にいるのは特殊詐欺グループ。
 2000年代は高齢者をだますオレオレ詐欺だったのが、2010年代後半になると騙せなかった相手に強盗に入る『アポ電強盗』にまで発展してしまった。
 そして2024年、素人に強盗をさせるという新たな手口が登場したのだ。

 ちょっと小遣い稼ぎのつもりで行ってみたら強盗の現場だった、ということが起こるのだ。
 私には中学生の息子が二人いる。彼らと十も離れていない青年たちが、電話の指示一本で強盗をし、追い詰められ、人を殺してしまう。
 明日、自分が被害者になるかもしれないという恐怖と同時に、私には「明日、加害者の親になるかもしれない」という焦燥感も生まれた。
 
 そんな日常の中で、本作は生まれた。

 今作の発端は、日本の犯罪史で殆ど起こったことがない、『シージャック事件』だ。
 実際に起こったシージャック事件でみなさんが思い出せるのは『瀬戸内シージャック事件』くらいだろう。シージャック事件は身近でもなく現実味もないからか、小説の題材に使われたことも殆どない。一般の人からは遠い事件を、どのように『自分事』と捉えてもらうか。私にとって大きなチャレンジだった。

 万博を翌年に控えた2024年、大阪湾で突如発生したシージャック事件。犯人の要求は、大阪万博の中止。
 大阪市内では闇バイトと思われる強盗殺人事件が連続発生していた。二つの事件の関連を必死に捜査する大阪府警の刑事・高城はやがて、シージャック事件に巻き込まれていく。
 一方、制圧を任された海上保安庁・特殊警備隊の隊長、岸本は、混乱の船内で因縁の相手に出くわす。
 黒幕は一体誰なのか。何が目的なのか。
 
 ぜひ、ご一読を!

  


吉川英梨(よしかわ・えり)
1977年、埼玉県生まれ。2008年『私の結婚に関する予言38』で第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞しデビュー。警察小説シリーズを中心に執筆し、著書に「警視庁53教場」「原麻希」「新東京水上警察」「十三階」「海蝶」「感染捜査」「埼玉県警捜査一課 奈良健市」各シリーズ、『海の教場』『トヨタの子』『新人女』など多数。

【好評発売中】

犯罪前夜

『犯罪前夜』
著/吉川英梨

採れたて本!【国内ミステリ#41】
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