相場英雄『覇王の轍』

相場英雄『覇王の轍』

素朴な疑問が出発点


〈こんなビジネスモデルで、どうやって経営を続けていくんだ?〉

 拙著『覇王の轍』は、こんな素朴な疑問が出発点となった。

 先に触れたビジネスモデルとは、〈ガラガラに空いた列車〉を指す。素人目にみても、将来的に破綻するのが目に見えていると映ったのだ。

 私事で恐縮だが、日頃の取材活動では自ら自動車やバイクを駆り、目的地に向かう。都市、あるいは地方の駅前だけではその土地の有り様を理解できないため、郊外や住宅地、近隣の田畑の間を走る。地元の食堂で食事を摂り、実際の空気や匂いを感じ取るよう努めているからだ。

 ただ相手方の事情、または時間的制約からやむなく公共交通機関を利用することもある。その場合、利用する機会が多いのが〈新幹線〉なのだ。

 あらかじめお断りしておくが、私は鉄道ファンでもマニアでもなく、どちらかといえば〈鉄分が極端に薄い〉。要するに鉄道に対しての思い入れが一切ない。だから冒頭のような言葉が出てくるのかもしれない。

 専業作家になる前、私は長らく通信社の経済記者を務めた。キャリアの中では、企業がどのように稼ぐかについて、多くの記事を書いてきた。日本の鉄道各社はれっきとした営利企業であり、記者の視点から見ると〈ガラガラに空いた列車〉を走らせ続けることは株主の利益を損ね、ひいては会社存続の危機につながる危険な行為に映る。

 もちろん、鉄道が社会的インフラの一翼を担っているという立場は十分に理解しているが、それでも競合する移動手段(飛行機や高速道路)が充実しているのに、なぜガラガラの列車、それも多額の資金をかけて作った一部の新規新幹線路線が採算度外視なのか、疑問は膨らみ続けた。

 実際、ドル箱と呼ばれる路線を除き、私が乗った車両の多くがガラガラで、〈空気を運んでいる〉と揶揄されるような状況すらあった。

 創作過程では卑しい記者目線で取材を進めた。すると、驚くような事実が次々に判明した。もちろん本作はフィクションだが、下地には多くの〈ファクト=事実〉がある。

 今回は『震える牛』、『ガラパゴス』、『アンダークラス』の田川警部補シリーズ初のスピンオフとなる。

『アンダークラス』で田川警部補に捜査のイロハを叩き込まれた警察庁キャリア、樫山順子警視が地道に調べを進めるうち、〈ガラガラに空いた列車〉、〈採算度外視〉のカラクリ、危険性が浮かび上がる。

 二つのキーワードに通底するのは、いずれ一般利用者、または国民全体にそのツケが跳ね返ってくるという厳しい現実だ。主人公の樫山警視の視線を通じて得られた事実は、読者の鉄道観を変えてしまうかもしれない。

 


◆サイン会情報◆
下記の日程・場所にて
『覇王の轍』の著者サイン会が開催されます。
詳しくは各店舗へのリンク先をご覧ください。

日時:2月18日(土)14:00~
場所:コーチャンフォー旭川店

日時:2月19日(日)14:00〜
場所:紀伊國屋書店 札幌本店


相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。89年に時事通信社に入社。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。主な著書に『血の轍』『ナンバー』『不発弾』『トップリーグ』『Exit イグジット』『マンモスの抜け殻』など。本作『覇王の轍』は、『震える牛』『ガラパゴス』『アンダークラス』と続く、〝田川信一シリーズ〟のスピンオフである。

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『覇王の轍』
著/相場英雄

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