【著者インタビュー】プチ鹿島『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』/視聴率のための過剰演出じゃない! テレビマンの熱さを見直すジャーナリスティックな一冊

1977~85年にかけて放送され、当時の子どもたちをワクワクドキドキさせた水曜スペシャル『川口浩探検シリーズ』。ヤラセとも揶揄された人気番組の足跡を辿り、新事実までも手繰り寄せた著者にインタビューしました!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

ヤラセとは何か、演出とは何か。70年代後半から80年代にかけ放映された人気番組の足跡を辿りテレビの本質に迫るノンフィクション!

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実

双葉社 1980円
装丁/西郷久礼

プチ鹿島

●ぷち・かしま 1970年長野県生まれ。大阪芸術大学芸術学部放送学科卒。お笑いコンビ「俺のバカ」等を経て、現在は時事芸人として幅広く活躍中。趣味は新聞14紙の読み比べ。19年にニュース時事能力検定1級合格。著書は他に『教養としてのプロレス』『お笑い公文書2022こんな日本に誰がした!』等。2/18にはラッパーのダースレーダー氏との監督・主演作品『劇場版センキョナンデス』がポレポレ東中野と渋谷シネクイントで公開。その後全国にも。157㌢、58㌔、O型。

遊び心を信じて面白いものを作ろうとするテレビマンの熱さに昔とか今は関係がない

 新聞計14紙の読み比べを趣味とし、ラジオに執筆にと幅広く活躍する時事芸人、プチ鹿島氏(52)にとって、水曜スペシャル『川口浩探検シリーズ』(テレビ朝日系、77~85年)と同局の『ワールドプロレスリング』は、人生観を変えるほど影響を受けた大事な存在だという。
 長野県出身の著者の場合、視聴できたのは80年代から。中でも82年5月の『恐怖! 双頭の巨大怪蛇ゴーグ! 南部タイ秘境に蛇島カウングの魔神は実在した!!』と、同年6月放送の『謎の原子猿人バーゴンは実在した! パラワン島奥地絶壁洞穴に黒い野人を追え!』は印象深く、お茶の間のテレビにカセットデッキを押し付け、何度も夢中で聞いた少年は、その未知の生物が本当にいると信じて疑わなかった。
 しかし周囲は違うらしく、幼心にしまいこんだ積年のモヤモヤが、本書『ヤラセと情熱』に結実した格好だ。現に元関係者の消息を追い、話を訊くと、彼らは著者の番組愛に報いるように口を開く。情熱が情熱を呼び、新事実をも手繰り寄せた、ジャーナリスティックで奥の深い1冊なのである。

「最初はそれこそ、自分が大好きな番組の元関係者の方々に会って、話を訊いてみたいという、ごく純粋な動機で始めたんです。
 水曜の夜は川口浩、金曜はアントニオ猪木という、自分が本気でワクワクドキドキしてきたものが世間で過小評価されているのが、僕はずっと疑問で。もちろん番組ではほぼ毎週発見される事実がなぜ新聞に載らないのか、さすがに僕も大人の事情に薄々気づいてはいくんですが、仮にツクリだとしても人をあそこまでワクワクさせるなんて逆に凄いよなって。その彼らが後々どんな仕事をし、テレビの今とどう繋がっていくのか、その辺も含めて訊いてみたかったんです」
 元隊員への取材に先んじ、まずは大宅文庫で〈資料のジャングル〉に分け入った著者は、同番組が85年8月、同じテレ朝系『アフタヌーンショー』で起きた〈ヤラセリンチ事件〉のあおりを受けて終了した経緯を掴む。
「常々僕は84、85年辺りにメディア自体の潮目があると見ていたんですが、その見立てが今回は改めて裏付けられた感じはしましたね。
 例えば本書でも取材した嘉門達夫さんが『ゆけ!ゆけ!川口浩!!』を出したのが84年6月で、以来〈水スぺはネタとして処理する〉という、後のメタ視聴に繋がる土壌が形成されたのは興味深い事実です。
 また85年には王道の『全員集合』が終わって、ワイドショーが日航機墜落事故や豊田商事会長刺殺事件やロス疑惑を報じる中で、例のヤラセ事件が発覚する。探検隊終了も〈もらい事故〉というより同時多発的なものだったかもしれません」
 しかしヤラセの定義自体曖昧で、著者の旅は先述の嘉門氏や早大探検部出身の高野秀行氏ら、番組の外にも及ぶ。実は探検隊自体はその後何度か復活しており、94年には名高達郎氏を隊長に〈肉食恐竜ミゴー捕獲〉と銘打つも結果は非難囂々。〈この頃から社会が大人の遊びを徐々に受け入れなくなった〉とある人は言い、特に95年のオウム事件以降、〈カジュアルなオカルトを面白がる空気〉が失われ、〈「イエスかノーか」という行間の無い時代〉の延長に今があると鹿島氏は書く。

視聴率のための過剰演出じゃない

「僕は今のテレビを腐すために本書を書いたんじゃないんです。むしろずっと〈半笑い〉で語られてきたあの番組の影響下に、今でも多くの作り手がいるんじゃないかと思っていて、コンプライアンスや何やで雁字搦めの中、それをくぐって面白いものを作ろうとするだけで凄いよねとか、テレビマンの熱さを見直す本になっていればいいなと。
 格闘技にしてもあの時代があるから今があるわけで、どっちがいい悪いじゃなく、全部1つの流れの中に続いている話だと思うんです」
 そして鹿島氏はいよいよテレビには映らない〈一番ヤバいとき〉を知る元隊員らの元へ。〈落差30メートル宙吊りの放送作家〉〈ウミヘビ手掴み10匹持つAD〉。かと思えば、台本の存在を公表していれば〈心がチクチク〉せずに済んだという元ディレクターまでいた。
「その彼も2000年代に『藤岡弘、探検隊』に誘われると心が騒ぐんですよね。そこは業なのか。その他、TBSの徳川埋蔵金や『世界ふしぎ発見!』、フジの『なるほど!ザ・ワールド』にもイズムは継がれ、過剰演出は視聴率とは一切関係なく、単に現場が面白い絵を求めた結果だというある人の言葉はなるほどと思いました。確かに蛇を仕込む前の毒蛇駆除こそ命がけで、嘘とまことが逆転している(笑)。だとすれば本当だとされているものの中に逆に嘘があってもおかしくなく、神の手事件にロス疑惑にと興味は尽きませんでした」
 結果的に鹿島氏の探検は幾つかの課題を残したまま終わるが、「実際の番組でも不透明決着は多く、メタ的でいいかな」と彼は笑う。
「結局僕が会ってきたのも、過程、、やそれを見せること、、、、、に熱中できた人達なんですね。埋蔵金に関して糸井重里氏が〈あるとしか言えない〉と言ったのはまさに至言で、そこにお宝はなくても穴はあり、しかもその〈3センチ向こう〉には何があってもおかしくない。その3センチ先の遊び心を信じられるかどうかも、昔とか今は関係なく、当人の問題ですから」
 探検隊やプロレスに熱中する自分を隠し、ひたすらその熱を孤独に温めた少年は、だからこそ本書のき書き手となり得たのだろう。好きの力はやっぱり尊くて偉大だ。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2023年2.10/17号より)

初出:P+D MAGAZINE(2023/02/02)

相場英雄『覇王の轍』
『超短編! ラブストーリー大どんでん返し』刊行記念鼎談 ◇ 森晶麿 × 大山誠一郎 × 青崎有吾