鈴峯紅也『引越し侍 門出の凶刃』
レッツ、キャッチー
「タイトルはですね。こう、バーンとキャッチーに」
と、初出当時の担当編集に言われたのはさて、今からどのくらい前のことだったですかね。今よりちょっとだけ髪の毛は多くて、だいぶ痩せてて、間違いなく老眼でなかったことだけはたしかです。
「ふうん。バーンとキャッチーにねえ」
「そうです。タイトルさえキャッチーならもう、バーンですから。わはは」
こういう遣り取りにはあまり気は乗らないけれど、やれと言われればやる素直さと下請け気質だけは十二分に持ち合わせていますので、典型的なA型の私はやります。全力でやります。
まあ、加えて若いってこともありましたかね。全部は覚えていませんが、20個近くは考えたんじゃないでしょうか。
古いデータを引っ張り出してみますと、
〈あっぱれ侍〉、〈お掃除侍〉、〈内藤三左と愉快な爺いたち〉などなどで、〈内藤三左 綺麗好き〉、〈内藤三左 犬猫が嫌い〉までくるともう、これはなんの小説でしょう。
その中でも編集担当チョイスで最後に残った候補が、〈引越し侍〉と〈ホームレス侍〉だったような。
「わはは。ホームレス侍。いいですねえ。ホームレス***。あれは売れたし。わはは。キャッチー」
そのままだったら絶対〈ホームレス侍〉になるところを、いくらなんでもそれは、と止めたのは提案しといてなんですが、A型の私だった気がします。
かくて、〈引越し侍〉は日の目を見ることと相成りました。
敬愛する柴田錬三郎さんの切れ味鋭い〈御家人 斬九郎〉のような小説に、近衛十四郎さんの軽快でユーモラスな〈素浪人 花山大吉〉のエッセンスを――。
私の中では大層なテーマでしたが、そんな思いで書き始め、完成を見た小説はどうでしょう。上手くいきましたかね。
皆さん。どう思います?
是非、本作〈引越し侍〉を手に取ってお読みいただき、どこかでホロリと、あるいはクスリとしていただければ、キャッチーでバーンな小説を書き、最近ではJやらKやらQといったアルファベットな小説を書いている身としては、大いに幸いでございます。
鈴峯紅也(すずみね・こうや)
1964年、千葉県生まれ。ライター歴20年の後、2015年12月、デビュー作『警視庁公安J』で一躍有名作家に。シリーズ作「警視庁組対特捜K」「警視庁監察官Q」「警視庁浅草東署Strio」が人気を博す。
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『引越し侍 門出の凶刃』
著/鈴峯紅也