「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第11回

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第11回
唯一無二の世界観で今大注目のお笑いコンビ〝男性ブランコ〟。そのネタを作る平井まさあきさんの脳内は一体……? たっぷりの妄想をふりかけた、おいしいおいしい平井さんの日常をお楽しみください!

11.「大きな城」

 僕の目の前には大きな城が聳え立っていた。何十年ぶりだろうか、小学生の頃に初めてこの城を見た時もきっと「なんと大きな!」と驚嘆していたと思う。大人になった自分が今現在、この城を目の前にした感想も寸分違わず「なんと大きな!」である。僕は口ポカンスタイルでずっと見上げていた。

 数時間前、僕は姫路に降り立ちました。姫路で仕事があるわけでもなく、姫路に生き別れた兄弟がいるわけでもなく、姫路に行けと西の魔女に言われたわけでもなく、僕は姫路に降り立ったのです。とある目的を遂行するために。

 この原稿を書いている今、我々男性ブランコは単独公演ツアーの真っ只中です。その京都公演が終わり、1日休みがあり、その後は大阪でNGKのネタ出番というスケジューリングでした。この1日の休みに東京へ一旦戻ってもよかったのですが、そこは我、大人でありましたので、急遽姫路にホテルをさらりと取り(きゃー大人)、ぱぱっと新幹線のチケットを取って(きゃー大人)、ぎゅうぎゅうに詰まったキャリーケースを神輿のごとく肩に担ぎ(コロコロに頼らないなんて、きゃー大人)、道端に咲くポピーを愛で(それは子供だって愛でるよ!)そんなこんなで『きゃー大人』ポイントを3ポイントも獲得して一人姫路1泊を決めたのです。

 姫路に到着したのは、昼が布団に入り、代わりに夜がのそのそと起き上がってきた17時半でした。まずは颯爽と姫路駅前のホテルへチェックイン、そして、颯爽と鍵を受け取り、颯爽と感謝を述べ、颯爽とエレベーターに乗り込み、颯爽と部屋へ入り、颯爽とベッドに寝転がり、颯爽とちょっと寝てしまいました。

 そして起きると20時を回っていました。「ああ、僕は姫路に来てから颯爽としかしてない」と自己嫌悪に陥り、ベッドの上で頭を抱え、右へごろごろ、左へごろごろしました。左右ごろごろをしたところで問題解決には至りません。ですので、僕は「散歩だ」と決心をしたのです。

 そして冒頭のシーンへと戻ります。そうです。冒頭の大きなお城とは、白鷺城こと姫路城です。夜の散歩で出合った姫路城は派手でなくちょうど良い感じに素敵ライトアップされていました。僕はどれぐらい口ポカンスタイルを貫いていたでしょうか。口の中で小さなミミズクが木の虚と勘違いして子育てを始めていたのでかなりの時間を口ポカンに費やしていたことでしょう。姫路城は白鷺城の名前に違わぬ美しい白っぷりを遺憾なく発揮しており、かつ大きく荘厳な佇まいでした。あまり城というものに見識を持っておらず、でっかい家のようなものぐらいの認識でありました。しかしながら、いざ目の前にしてみるとここまで圧倒されるものなのですね。僕は咄嗟にもし自分が姫路城を攻め落とすならと穏やかでない想像を巡らせました。

 全身を鉤爪にした鉤爪人間と化し、カッコカッコと城壁を登り天守閣を目指すか、いや、そんなカッコカッコと登っていたらただのゆっくり動く的です。優秀な鉄砲撃ちに撃ち落とされ、その下に構えていた凄腕のお侍さんに「ごめんごめん」と言われながらバッサリバサリ、文字通りの切り捨て御免をされてしまう。それならば足先を車輪にし、ローラースケートのように高速で正面突破しようか、しかし、あの巨大な城門をこじ開けるほどのパワーは出せない。城門前で右往左往するだけです。警備をしている凄腕のお侍さんにより横から後ろから袈裟斬り三昧です。仕方ない、ならば、砲台を設置し、そこから人間大砲として、どかーんと発射してもらおう。これなら一気に天守閣に入ることができるのではないか。だめだ、多分、発射の勢いでメガネが吹っ飛び、天守閣に無事に辿り着いても、視界がボヤけている状態で天守閣にいる凄腕のお侍さんに出会ってしまう。そんなのひと突き、ふた突き、み突き、よ突きの突き突き祭りが催されてしまいます。僕の乏しい想像力ではどう足掻いても凄腕のお侍さんにやられてしまいます。

 なるほど、この姫路城は美しさの秘密は機能美にあるのかもしれない。しっかりとした要塞としての城の役目をまっとうしているからこそ、この美しい佇まいを可能にしているのだろう。そう考えるとこの姫路城という城をとても好きになりました。その好きはもはや愛です。人に例えるならば「好きぴ」です。好きぴ。好きぴ城。いや、姫ぴ城なのです!

 そんな全世界が嫉妬するネーミングセンスに、己が己に賛辞を送りながら、城周りを散歩していました。すると突然の大雨に見舞われ、全身ずぶ濡れ、濡れ鼠と成り果てました。え? 嫌だった? 姫ぴ城。

「まあ、嫌とかでないけど、呼び方とか勝手にしてもらっていいけど、なんか嫌。」

 嫌とかではないというエクスキューズを高速で撤回するその身のこなし、さすがは国宝。恐れ入りました。

 そして僕はそそくさとホテルへ戻り、シャワーを浴び、タオルで拭き拭き、なんとか乾き鼠に進化を遂げました。乾き鼠は布団にくるまり、一夜を過ごしました。

 さて、当初から言っていた遂行すべき目的です。それは姫路が誇る水族館、姫路市立水族館に行くこと、そしてさらにこの水族館のほど近くにある植物園、手柄山温室植物園に行くということでした。もちろん、強固なる意志を持つ僕はその目的を完遂いたしました。とても素晴らしき水族館と植物園でした。本来ならばこの水族館と植物園に行った壮大感想絵巻を展開したいところなのですが、もう字数がパンのパンであります。ですので、この感想は次回へと繰り越したいと思います。姫ぴ城と言いたいがために多大なる文字数を割いてしまったことをここにお詫びします。

 

 と、これでこのコラムを締めくくらせてもらおうと思っておりましたら、外が何やら騒がしい。窓を開けるとザザーっと雨が降ってまいりました。本当に。え? 嫌だった? この締めくくり。


平井まさあきさん

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。


「妄想ふりかけお話ごはん」連載一覧

小松亜由美『イシュタムの手 法医学教授・上杉永久子』
◎編集者コラム◎ 『ナゾトキ・ジパング SAKURA』青柳碧人