「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第7回

「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第7回
唯一無二の世界観で今大注目のお笑いコンビ〝男性ブランコ〟。そのネタを作る平井まさあきさんの脳内は一体……? たっぷりの妄想をふりかけた、おいしいおいしい平井さんの日常をお楽しみください!

7.「鴨川

 3月となりました。2月の時点で、家の近くの軒先では梅の花がふらわっと咲いているのを発見しましたので、春の訪れを感じずにいられない3月であります。花粉に悩まされている方はなかなかに迎え入れがたい時期ではないでしょうか。僕はといえば、幸運なことに花粉症の類には悩まされておらぬ身でありますから、ぽかんと口を開けて春を待っているという雰囲気です。このような体たらくでありますから、きっと近い将来、花粉症になること請け合いでしょう。僕はきっと泣き喚いて「詰まるところ粉のくせに〜」と駄々をこね、暴れ散らしていることでしょう。よかったら笑ってやってください。さすれば、駄々のこねがいがあるというものです。

 さてもさても、近いこれからのことを書かせていただきます。明日からお芝居の稽古が始まります。万城目学さん原作のヨーロッパ企画公演『鴨川ホルモー ワンスモア』の稽古です。この公演に参加させてもらえる喜びたるや、筆舌に尽くしがたきこと甚だしきこと甚だしいとはこのことです。万城目さんの作品に上田さんのワンスモアが加わる。ワクワクを通り越して、ヲクヲクします。なんとか足を引っ張らずに、右肘に触れるぐらいに留めておけるように頑張ります。鴨川ホルモーに参加される演者さん、スタッフさん、劇場さん、社員さん、つまり鴨川ホルマーの皆さんよろしくお願いします。そして劇場にきてくださるという鴨川ホルミニストのお客様方、どうぞよろしくお願いいたします。

 さてもさても鴨川さてもー、『鴨川ホルモー』といえば、舞台は京都、題名にある通り、その鴨川が重要な要素になります。鴨川といえば浅はか知識を総動員するとカップルが等間隔に座り、愛の睦言を睦みあい、睦み散らしている光景が目に浮かびます。意外にも僕はそんな経験はありません。意外にもです、鴨川意外にもー。僕が鴨川と聞いてまず思い浮かべるのは、お笑い養成所に入って間もない頃のことです。

 相方の浦井は京都出身で、当時実家から大阪に通っていました。ある時、ネタ合わせを鴨川でやろうということになり、上記のカップル等間隔の中に混じりこみ、ネタ合わせをしました。男女の「なんだこいつら」という鋭い視線を全身に浴びましたが、そこは僕らライオンハートの持ち主。獅子の勇気を奮い立たせて、僕ら男二人は立って、鴨川に向かって漫才の練習をしていました。男女の「なんだこいつら」の視線から「なんだこいつら……面白え」という視線に変わった……なんてことはなく、あまりにボソボソと男二人が鴨川に向かって会話している様に、恐怖すら感じたのか(おそらく漫才の練習とも思われていなかったでしょう)カップル等間隔の公式を崩すが如く、僕らの周りから、カップルたちは離れて行きました。相方の「もうええわ」がカップルからしたら「ほんとにもうええわ」だったに違いありません。

 しかし、そんな中、僕らの漫才を見ていた方がいらっしゃったのです。僕らが一つの漫才のネタをやり切ると、鴨川の底の方から、なんとオオサンショウウオが顔を出したのです。僕はシンプルに「うわ、オオサンショウウオや」と当たり前の中の当たり前のことを思いました。驚愕の光景を目にしたのは次の瞬間でした。そのヌッと顔を出したオオサンショウウオは、前足で水面をバシャバシャと何度も何度も叩いたのです。そうです。オオサンショウウオなりの拍手です。オオサンショウウオは手が短いですから、両手を合わせて拍手はできません。だから水面を叩くことでそれを拍手としたのです。そして、オオサンショウウオはスウっと川の底へと消えて行きました。思い切って言います。僕らを一番最初に認めてくださった方、さらにいえば一番最初のファンの方は、オオサンショウウオなのです。僕らはこのオオサンショウウオから始まったと言っても過言ではありません。このオオサンショウウオがいなければ僕らはいなかった。オオサンショウウオ万歳、オオサンショウウオ万歳、オオサンショウウオ万歳、オオ万歳三唱ウオです!!

 

 よっ。出ました。オオ万歳三唱ウオ。

 

 別に、これが言いたかったからこんな長々と言葉を連ねたわけではありません。この話は妄想でもなんでもなく真実なんです。真実この上ないのです。フルパワー真実です。

 ですので、このエッセイのタイトル「妄想ふりかけお話ごはん」という縛りを破ってしまったことになります。言うなれば「真実ふりかけお話ピラフ」になってしまいました。申し訳ございません。今後こんなピラフを作ることのないように心がけるので今回ばかりはお許しください。

 そんなとっても重厚な思い出のある鴨川。僕らが始まった鴨川。一度は入ってみたい納涼床のある鴨川。流れ込みのところがなかなかうるさい鴨川。僕らを育ててくれた鴨川。たまにはいるかな鴨の親子、鴨川。調子乗りの大学生が飛び込む鴨川。

 そんな鴨川を舞台にした作品『鴨川ホルモー』ぜひみてください。一応、あのオオサンショウウオ兄さんにも招待状を送りたいと思います。笹舟にして。

 

 ゴミになるからやめた方がいい?

 鴨川ごもっともー!


平井まさあきさん

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。


「妄想ふりかけお話ごはん」連載一覧

週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.137 大盛堂書店 山本 亮さん
連載第16回 「映像と小説のあいだ」 春日太一