河﨑秋子『絞め殺しの樹』

河﨑秋子『絞め殺しの樹』

子鹿の死に方と死なない白猫


 よくある話で恐縮だが、動物が死ぬ話に弱い。嫌いではなく、涙腺の耐久値が低く、気を抜くとすぐに泣いてしまう。その最初は、忘れもしない、子どもの頃に見たアニメ『子鹿物語』だ。

 ジョディ少年と子鹿のフラッグは豊かな自然の中で共に成長していく。終盤、大きくなったフラッグが大事な作物を食い荒らす問題が発生するが、当時の私は「わあ大変、でもラスカルみたいな形で別に生きていくんだろうな」と結末の予想を立てていた。

 ……だが、ご覧になったことがある方はご存じだろうが(※以下ネタバレ注意)最終的に、フラッグは害獣として射殺される。しかも、よりによって愛するジョディの手によってだ。

 当然、私は大きなショックを受けた。「もしかしたら原作は違うエンディングかも」という一縷の希望を抱き、翌日、小学校の図書館に駆け込んだ。棚から『子鹿物語』の翻訳本を探し出し、「そして一人と一匹はそれぞれ幸せに暮らしました」という内容を期待して、掟破りにも最後のページから読み始めた。しかし、そこにはアニメと同じ結末が記されていたのである。

 少し考えてみれば、「フラッグ死亡→アニメでは生存」という改変ならともかく、逆はまずあり得ないことは分かりそうなものだが、とにかく私は図書館の片隅で「フラッグー!!」と打ちのめされた。そして現在に至るまで、愛着ある動物が死んでしまう物語は涙腺に「ハァッ!」と気合を入れ、それでも時に落涙してしまうのだ。

 かくのごとく、読者としては動物の死に弱い私だが、物書きの端くれとしての私は、物語内でしばしば動物を死なせている。ただ、人間の死と同様、物語の盛り上がりのためにではなく、その死に意味があるように、ということだけは心を配っているつもりだ。

『子鹿物語』に関しても、書き手側となった今ならば、「害獣となった動物を相応の痛みを引き受けながら落とし前をつけた少年の成長物語」だと思えるし、安易な感動物語としなかったところに原作者の誠実ささえ感じる。

 今回一冊の本として世に送り出す拙作『絞め殺しの樹』は、白猫が度々登場する。作中の長い時間の中で度々世代交代はするが、猫が死ぬシーンはない。それは、私が猫の死を書きたくなかったからではなく、登場人物に寄り添う存在として、どこか浮世離れした存在として描いたためである。なのでその点、動物の死に弱い諸氏もどうぞ安心してお手に取って頂ければと思う。

 


河﨑秋子(かわさき・あきこ)
1979年北海道生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。20年『土に贖う』で第39回新田次郎文学賞を受賞。他の著書に『鳩護』がある。

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著/河﨑秋子

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