週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.163 ブックファースト練馬店 林 香公子さん
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- コズミック 世紀末探偵神話 新装版
- 名探偵の有害性
- 小学館文庫
- 新 謎解きはディナーのあとで
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小説の舞台は30年前。世の中は探偵ブームで、テレビの年末特番で探偵たちが推理合戦を繰り広げています。そんな中、活躍したのは探偵・五狐焚風と助手・鳴海夕暮の二人。大学構内でのちょっとした謎解きから始まって、雪山ペンションでの連続殺人、爆破予告列車からの脱出、カルト教団に学校の怪談、日本武道館での推理合戦などなど。事件は助手が小説として発表し、なんとテレビドラマ化されたりと一世を風靡しました。が、機械探偵との対決に敗れ、スッパリ引退した二人。探偵ブームはなかったかのように終了。そして彼らが50歳となった現在、探偵五狐はテレビドラマの主題歌の作詞印税で悠々自適に生活。一方、助手鳴海は親から受け継いだ純喫茶をほそぼそと経営中。マスターをまかせている年下夫の不倫を知りつつも身動きの取れない日々を送っています。そこへ突如、「超法規的存在っ!家父長制の亡霊っ!名探偵という暴力っ!推理という抑圧っ!いますべて消え去るときがきたっ。声なきものの声がいま聞こえる。名探偵を、いまっ、告発しますーっ!」と Vtuber から名指しで糾弾を受けたことにより、探偵と助手の逃避行がスタートします。かつての探偵行為はそんなにも有害だったのかと事件の関係者を訪ねる二人。
……と出だしだけでもぎゅうぎゅうな内容。その上、彼らが再訪することで判明していく事件解決の際にこぼれ落ちていったものは、小説の中の「お話」であると共に、1990年頃に熱狂を生んだミステリ小説とは何だったのか?の探偵小説論であり、女性の立ち位置の移り変わりといったフェミニズム論などにもなっており、読み応えたっぷり。2024年の今、様々な方面に配慮をしつつエンターテイメントを提供するという難度の高い技は、長年書き続けておられる著者ならでは。そして、女性が一歩を踏み出す印象的なシーンを書き続けている桜庭一樹氏が、今作で最初に「中年女は、この世の透明人間なの」と言わせていた語り手をどこに連れていくのか。ぜひ、お確かめくださいませ。
あわせて読みたい本
探偵たちの饗宴といえばこちら。警察そして名探偵集団・JDC(日本探偵倶楽部)が推理を繰り広げる世界に突きつけられる「1200個の密室で、1200人が殺される。」という犯行予告状。1996年に、第2回メフィスト賞受賞作として発売後話題をさらった怪作。20年弱、入手が難しかった伝説の書がこの夏復刊となりました。あなたの感情をゆらすこと必須の1冊です。
おすすめの小学館文庫
小学館文庫の探偵といえばこちら。2010年よりシリーズ3作とスピンオフが発売の人気シリーズ。ご令嬢の新人刑事と執事探偵の活躍は、北川景子・櫻井翔のお二人が主演のドラマを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。2020年に「新」として再始動。新人刑事だったお嬢様にも後輩ができているなど、作中時間はちょっと進んでいますが、お嬢様っぷりも執事の毒舌も変わらず魅力的。この7月に「新」の文庫が発売になりました。9月18日には『新 謎解きはディナーのあとで 2』が発売予定。ちなみに『謎解きはディナーのあとで 3』には名探偵コナンも登場しますので、こちらもぜひ。
林 香公子(はやし・かくこ)
どちらかといえば読書家。