◎編集者コラム◎ 『新 謎解きはディナーのあとで』東川篤哉

◎編集者コラム◎

『新 謎解きはディナーのあとで』東川篤哉


『新 謎解きはディナーのあとで』写真

 9年振りに始動した人気シリーズ『新 謎解きはディナーのあとで』がついに文庫化です!

 シリーズの第1弾が発売された2010年、当時TSUTAYAでアルバイトをしていた私は発売からあれよあれよと本屋大賞第1位を獲得し、超話題作となったこの本を、とにかく売って、POPを描きまくり、売り場をどんどん展開していった、そんな記憶が強く残っておりました。数年後、まさか担当編集として関わるなんて……人生とは不思議なものです。

 のっけから余談を失礼しました。

 9年ぶりに始動した新章では、おなじみの令嬢刑事・宝生麗子、執事探偵・影山、風祭警部の3名に加え、天然キャラの新米刑事・若宮愛里が加わります。

 単行本発売時の取材の際に度々言われたこと、それは

「麗子が疲れている……」

 でした。

 相変わらず空気の読めない風祭警部にあきれながらも気を使い、とんちんかんな行動ばかりで放っておけない後輩の愛理ちゃん。事件現場ではこの2人に振り回され、帰宅すると影山に暴言を吐かれてしまう……。

 令嬢といえば、優雅でおしとやかな姿をイメージしがちですが、ちょっぴり言葉が悪くて、クタっとした姿も見せてくれる、人間味あふれる麗子に、私は編集作業中に何度も元気と笑いをもらいました。人が殺される話で〝元気〟と〝笑い〟って……と思われるかもしれませんが、それこそがこの作品の唯一無二な魅力、ユーモアミステリなのです。

 連載中に要となったのはUSBでした。普段は宅急便などで原稿データが入ったUSBを送って下さるのですが、スケジュールがギリギリになると西国分寺駅まで受け取りに行き、その足で会社に戻って入稿する。令和の時代にまるで飛脚のようですが、大事な原稿データを持っているという気持ちから、帰りの中央線は妙にドキドキしておりました。

 前述でわかるように、東川さんはメールを使用しないので全て電話で連絡を取り合います。そうなると、朝→不在、昼→不在、夜→不在という日が続いたりして、担当になったばかりの頃は「なんで?」と謎が広がりました。後に、東川さんは午前中から小説のネタを探しに国分寺周辺を歩かれていて、朝でも結構早めの時間や夕方頃が狙い目というのがわかったのでした(思いがけない時間につながると嬉しい)。

 国分寺周辺を歩かれていると書きましたが、今回文庫の巻末に収録している書き下ろしショートショート「若宮刑事に倫理観はあるのか?」は、まさに日常の何気ない出来事をミステリに落とし込んだ一遍です。東川さんの見ている世界が気になり、事件が起きなくても、私たちのまわりにはミステリが溢れている!? とワクワクするお話なので、ぜひ最後までご覧ください!

 そして、2024年9月18日にシリーズ最新作『新 謎解きはディナーのあとで2』が発売となります! 前作よりさらに賑やかにパワーアップし、新たな難事件に挑んでおりますので、ぜひお楽しみにしていただけますと嬉しいです!

──『新 謎解きはディナーのあとで』担当者より

新 謎解きはディナーのあとで
『新 謎解きはディナーのあとで』
東川篤哉
作家を作った言葉〔第27回〕市街地ギャオ
乗代雄介〈風はどこから〉第17回