東川篤哉『新 謎解きはディナーのあとで2』
変わったけれど変わらない
お陰さまでこの度、『新 謎解きはディナーのあとで2』を無事に刊行する運びとなりました。あらためて考えてみると、この『新(タイトル)2』というパターン、意外と珍しいかもしれません。新シリーズの2作目ということで結果的にトータル何作目か、もはや判りにくくなっていますが、旧シリーズから数えて今回が5作目。最初の1話を書きはじめたのが2006年のことですから、もうかれこれ18年も前のこととなります。
これだけ年月が経つと、世の中が変化するのも当然のこと。登場した当初にはパカッと開く携帯電話を用いていた麗子や影山も、いまでは何事もなかったかのようにスマホの画面に指を滑らせております。登場人物は歳を取らないのに、持ち物だけがハイテク化していくというのは、なかなかシュールなことかもしれません。が、しかし――
そんなことより何より、この十数年で最も変わったこと。それは現実社会におけるコンプライアンスの意識でしょう。セクハラ、パワハラは断固許されず、誹謗中傷や罵詈雑言などの不適切な発言を口にすれば、たちまちネットは大炎上。当事者は即座に退場を告げられるという世の中です。この状況で《典型的セクハラ上司》風祭警部や《不適切発言連発の暴言執事》影山が、果たしていままでどおりの存在であり得るのか。かつてのような好感度(?)を維持できるのか。それとも、これはもはや時代遅れのキャラなのか。そもそも、この二人ってなんで人気あったんだっけ? そんなことを考えざるを得ません。
とはいえセクハラを遠慮するセクハラ上司、暴言をマイルドに言い換える暴言執事では、正直お話にならない。第一そんなぬるま湯みたいな環境では、令嬢刑事の麗子がつけあがるばかりでしょう。長年の読者も物足りなく思うに違いありません。いろいろ考えた挙句、現実の社会状況とは関係なく、風祭警部はセクハラ的な言動を繰り返し、影山は執事としてはあり得ない暴言を吐き続けて、今回の作品となりました。
古い読者は、お馴染みのキャラと推理をいままでどおりにお楽しみください。で新しい読者は、お願いですから二人のキャラにドン引きしないように! これはフィクションなんですから! どうか現実とは切り離して、別世界の本格ミステリをご堪能ください。
東川篤哉(ひがしがわ・とくや)
1968年広島県生まれ。岡山大学法学部卒。2002年カッパ・ノベルスの新人発掘プロジェクトで長編デビュー。11年、本シリーズ1作目『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞第1位。他に『館島』『密室の鍵貸します』『完全犯罪に猫は何匹必要か?』『交換殺人には向かない夜』『放課後はミステリーとともに』『仕掛島』『博士はオカルトを信じない』など著書多数。
【好評発売中】
『新 謎解きはディナーのあとで2』
著/東川篤哉