はらだみずき『太陽と月 サッカー・ドリーム』

はらだみずき『太陽と月 サッカー・ドリーム』

『太陽と月』が自信作である理由


 小説家は、自分にしか書けない作品を手がけたいと願うものです。そしてときに、「この話を書きなさい」と小説の神様に耳打ちされたような心持ちを抱くのです(あくまで僕の場合ですが)。自分の人生においてフックとなる体験は、ああ、このストーリーを書くためだったのか、と後になって思い至ります。

 新刊の『太陽と月』は、まさにそんな作品です。サッカーのクラブチームを舞台に、本気でプロの選手を目指す二人の少年を主人公とした物語です。

 代表作と呼ばれる「サッカーボーイズ・シリーズ」は、サッカーに対する特別な思いとその育成現場に実際に立った経験がおおいに役立ちました。

 一方、『太陽と月』は、自分にとって奇跡だと思えるほどの邂逅のおかげにほかなりません。

 本作を書くにあたっては、プロのサッカー選手を目指すとはどういうことなのか、それ自体を深く知る必要に迫られます。それは単に取材をくり返すだけで得られるものではないでしょう。

 この物語を書くきっかけとなったのは、息子のサッカーです。チームのレギュラーにも定着できず悔しい思いをしていた彼でしたが、小学生の終わりにサッカーのセレクション、いわゆる入団テストを受けました。無謀とも思えた挑戦に彼は破れましたが、それでも夢をあきらめませんでした。

 そして中学三年生となった彼は遂にチャンスをつかんだのです。まさにそれは僕にとって、おそらく彼にとっても奇跡に近く、これまでふれることのできなかったトップレべルのサッカーの育成現場の世界に僕をいざなってくれたのです。他者としての取材ではなく、プロを目指す当事者の近しい者として。そう、それはJリーグのアカデミーでした。

 そこで間近に見た多くの光景に衝撃を受けました。プロのサッカー選手になるという夢を叶えることが、これほどまでに過酷で険しい道である現実を思い知らされたのです。同時に、夢を追う彼らの姿を目に焼きつけました。

 ――夢は必然。

 偶然に、夢は叶うものではない。

 その思いを強くしたのです。

『太陽と月』は、そういった奇跡だと思えるほどのいくつもの実体験を持ち得た、自分だからこそ書けたリアルなサッカー作品だと自負しています。

 個性のまったく異なる二人のサッカー少年を通して、夢を追うことの意味を読者の胸に投げかけられたら――。

『太陽と月』は僕の自信作です。ぜひ、読んでください。

 


はらだみずき
千葉県生まれ。2006年『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』でデビュー。「サッカーボーイズ」シリーズ、「海が見える家」シリーズがベストセラーとなる。他の著書に、『帰宅部ボーイズ』『やがて訪れる春のために』などがある。

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太陽と月 サッカー・ドリーム

『太陽と月 サッカー・ドリーム』
著/はらだみずき

採れたて本!【歴史・時代小説】
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.53 吉見書店竜南店 柳下博幸さん