今月のイチオシ本【警察小説】 香山二三郎

道標 東京湾臨海署安積班
今野 敏
角川春樹事務所 本体1,600円+税


 今日の警察小説人気に火をつけたのは逢坂剛の公安警察シリーズや黒川博行の大阪府警捜査一課シリーズ等、一九八〇年代の諸作の功績といっていい。中でも警視庁系の捜査小説の正統派として今なお厚い人気を得ているのが、今野敏の東京湾臨海署安積班シリーズである。

 本書はその最新刊で、全一〇篇からなる連作短篇集。長篇じゃないのかとガッカリするなかれ。本書はただの短篇集じゃない。主人公安積剛志警部補の警察学校時代から臨海署時代までの足跡をたどった、彼の個人史ものでもあるのだ。

 警察学校時代の柔道の練習試合で敗北、挫折しかかっているメンバーを立ち直らせるべく安積たち班員が一致団結する冒頭の「初任教養」では、まだがむしゃらな熱血漢だった安積とのちに交通機動隊小隊長となる速水直樹のよきライバル関係も浮き彫りにされる。続く「捕り物」は八丁堀交番勤務時代のエピソードで、安積と元暴走族の少年との絆を描いた一篇。安積は主任の君島裕一巡査部長から「今はとにかく、一人前の警察官になることに専念するんだ」と諭されるが……。「熾火」は目黒署時代の話で、安積の一本気なキャラが早くも炸裂。自分が刑事になったことで蹴落とした形になった地域係の巡査に筋を通し、半グレ少年が殴られた事件では犯人の少年の動機にこだわり、事件の真相を暴いてみせる。

 続く「最優先」からはいよいよ臨海署時代に突入。安積は強行犯係の係長として赴任するが、その鼻っ柱の強さが災いして鑑識係の新任係長・石倉進と衝突する羽目に。次の「視野」は同じ事件の捜査模様を安積班の若き一員、大橋武夫巡査の視点からとらえた一篇で、ここから村雨秋彦巡査部長や須田三郎巡査部長等、本シリーズお馴染みの安積班の面々も登場し始める。

 後半の五篇では安積の指揮下、次第に家族のように一体となっていく安積班の活躍が描かれるとともに、主要メンバーひとりひとりのキャラクターにも改めて焦点が当てられていく。本書で初めて本シリーズに触れるかたには、まさに恰好の入門書というべきか。

 

(「STORY BOX」2018年2月号掲載)

(文/香山二三郎)