平昌オリンピックで熱くなりたいあなたに! おすすめの「スポーツ小説」5選
2月9日からいよいよ開催される平昌オリンピック。観戦を楽しみにしている方にもおすすめなのが、手に汗握る熱い展開を楽しめる“スポーツ小説”です。今回は、人気の高いスポーツからマイナースポーツまで、珠玉の“スポーツ小説”を5冊紹介します。
読書好きの方の中には、「スポーツはちょっと苦手」「自分でプレーするのも観戦するのもあんまり……」という方が少なくないのではないでしょうか。
一見、読書と正反対の位置にあるように思える“スポーツ”。しかし、そんなスポーツをテーマにした小説には、読んでいるこちらまで手に汗を握ってしまうような名作が数多くあるのです。
今回は、ドラマ化で話題になった池井戸潤の『陸王』を始め、人気の高い現代作家の作品から、スポーツをテーマにした名作青春小説を5冊ご紹介します。2月9日からは、平昌オリンピックも開催されます。選手たちの熱い闘いを見たら、思わず体を動かしたくなるに違いありません!
王道の野球や陸上からちょっとマイナーなスポーツまで、登場人物同士の人間関係を楽しむのはもちろん、そのスポーツの入門書としてもおすすめしたい作品を選びました。
これぞ青春。陸上小説の金字塔――『風が強く吹いている』三浦しをん
【あらすじ】
http://amzn.asia/1vWA4M3
大学1年生の
走 は、高校時代にインターハイを制覇した脚力の持ち主だが、問題を起こし陸上部を辞めていた。ある日、万引きをして逃走中に、同じ大学の4年生・灰二に捕まる。金がないことを灰二に明かすと、灰二は走を「竹青荘」に住まわせてやると言い……。
2009年の映画化でも話題となった三浦しをんの『風が強く吹いている』。天才ランナーでありながらも人と衝突しやすい走が、「竹青荘」の住人たちと出会い、箱根駅伝を目指すというストーリーです。
高校時代に陸上に打ち込んでいた走と、走を再び陸上に誘った灰二。彼ら以外の竹青荘の住人たちは最初、ヘビースモーカーや運動に縁のない漫画オタクなど、とても駅伝に出場できるような体力の持ち主ではありませんでした。しかし、走の走りや灰二の情熱に心を打たれ、次第に本気で“走ること”に心血を注ぐようになります。そして、走も灰二の背中を見ながら、少しずつ変わってゆきます。
「ハイジさん、知ってるんですよね? 聞いたことあるでしょう、俺の高校時代の評判を」
「きみの走りがとても速いってことか」
「それはいいほうの評判。俺が言ってるのは……」
「走」
清瀬は走の言葉をさえぎった。「いいか、過去や評判が走るんじゃない。いまのきみ自身が走るんだ。惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ」
いままで走に、もっと速くなれと言ったひとは大勢いた。だが、強くなれと言われたのははじめてだ。強くなるとは、どういうことだろう。
「強くなるとは、どういうことだろう」。走はその答えを探すため、一度は諦めた走りを再び「箱根駅伝」という夢の舞台で実現させようとします。
走たちの友情や絆はもちろん、
俺の時間だけ止めてくれ。時間を超えたい。
チーターに狙いをつけられたシマウマだって、これほど走りはしないだろう。
……といった、こちらまで手に汗を握ってしまうような、疾走感あふれる走りの描写も秀逸です。念願の箱根駅伝の出場シーンでは、読むだけでタイトルの通り“風が強く吹いている”のを感じられること間違いなしです。
ドラマ化で話題! “ランニングシューズ”をめぐる熱血ストーリー
【あらすじ】
出典:http://amzn.asia/40LU1uo
埼玉県行田市の足袋製造会社「こはぜ屋」。100年の歴史を誇る老舗だが、此処数年は業績が低迷し、資金繰りに悩んでいた。そんなある日、社長の宮沢紘一は足袋製造の技術力を生かしたランニングシューズの開発を思いつき、社内にプロジェクトチームを立ち上げるが……。
100年続く老舗の足袋屋が、再興をかけてランニングシューズの開発に挑む『陸王』。2017年末にはテレビドラマ化され、役所広司、山崎賢人といった実力派俳優の共演でも大きな話題を呼びました。
社運を賭けてランニングシューズ「陸王」の開発を目指す社長の紘一を始め、就職に失敗した紘一の息子の大地、肘の怪我をきっかけに甲子園出場を諦めたマラソンランナー、大企業を離れたベテランシューフィッター……など、登場人物は崖っぷちに立たされた人たちばかり。
中でも、こはぜ屋の面々にシューズ製作のアドバイスをするベテランシューフィッター、村野の
「私たちが提供しているのはシューズだけどシューズじゃない。魂なんだよ。ものづくりをする者としての心意気というか、プライドというかね」
という言葉からは、一度は「負け組」と呼ばれた人物たちが再び這い上がろうとする泥臭い情熱を感じます。
物語の終盤、「陸王」を履いた選手がロードレースに臨む描写は、疾走感あふれるスポーツ小説として読み進められるのはもちろん、人知れず苦労や失敗を重ねてきた「負け組」たちによる痛快な逆転劇としても楽しめるはず。
勧善懲悪、思う存分笑って泣ける池井戸ワールドに浸ってみたい方には、ぴったりの1冊です。
関連記事:『陸王』池井戸潤・著者インタビュー
全力で人を応援する男子は、こんなにもカッコいい――『チア男子!!』朝井リョウ
【あらすじ】
http://amzn.asia/gXGLq0g
両親を亡くした大学1年生の一馬は、柔道のエリート一家に生まれた幼なじみの晴希を誘い、大学チア初の男子チーム「BREAKERS」を結成する。個性豊かな面々が集まったBREAKERSは、やがてチアリーディング全国選手権を目指すようになり……。
『チア男子!!』は、『桐島、部活やめるってよ』で鮮烈デビューを果たした朝井リョウの2作目にあたる長編小説です。朝井リョウは、出身校である早稲田大学に実在する男子チア部「SHOCKERS」に着想を得てこの小説を書いたと語っています。
主人公は、両親を亡くした一馬と道場の長男の晴希というふたりの大学生。一馬は、かつてチアリーディングの選手だった母親とそのコーチをしていた父親の姿に憧れ、幼なじみの晴希を男子チアに誘います。
【男子チア】
三人とも、同時にその文字を読んだ。ただ一人、一馬だけが大きく頷く。
「【誰かを応援することが、主役になる】」
チラシの一番下に書かれている文字。一馬の癖である右上がりの文字を目で追うと、さっきの一馬の声が鮮やかに蘇ってきた。
「【誰かの背中を押すことが、自分の力になる】……」
晴希は小さく小さく声に出していた。
「チアって……女がやるもんだよな?」
「一般的にはそうだな。だけど、男がやっちゃいけないなんて決まりはない。今大学のチア界で一番強いチームだって、男女混成チームなんだぜ」
何でもないような顔をして一馬は答える。
男女混成チームの力強いプレーを見た晴希は、チア=女子がするものという固定概念を捨て、チアに情熱を注ぐようになります。
一馬と晴希の友情はもちろん、頭脳派だけれど理屈っぽい変わり者の渉、チアの経験者で可愛いものが好きな翔……といった、男子チアチームの個性豊かなメンバーたちが活き活きと描かれているのも大きな魅力です。
肩の怪我をきっかけに柔道を諦めたメンバーや、かつてチアで女子メンバーを落としてしまった過去に捕らわれているメンバーなど、男子チアチーム「BREAKERS」の面々は、それぞれにコンプレックスやトラウマを抱えています。
スポーツで得た後悔や懺悔の気持ちを、“スポーツをプレーしている人を応援する”というポジティブな行動に昇華して成長していく登場人物たちの姿を見ていると、まるで自分まで応援され、励まされているような気持ちになってきます。
「野球監督」と「父親」の自分との間で揺れ動く――『卒業ホームラン』重松清
【あらすじ】
出典:http://amzn.asia/bZBidkC
少年野球チームの監督を務めている徹夫は、万年補欠の息子・智を最後の卒業試合に出すべきかどうかで迷っていた。中学生の娘・典子に「がんばってもいいことないじゃん」と言われた徹夫は、一度も試合に出たことのない智がなぜ野球を続けられているのか不思議に思うが……。
人情味あふれる作風で知られる重松清の『卒業ホームラン』は、短編集『日曜日の夕刊』の中の1編です。
甲子園への出場経験を持つ元野球少年の加藤徹夫は、地元の少年野球チームの監督を6年間務めています。息子・智もチームの一員ですが、練習しても練習してもうまくならず、試合に一度も出場できない息子がなぜ野球を続けているのかを、内心、不思議に思っていました。
チームに所属する子どもたちの親から「晴れ姿を見たいから、息子を先発出場させてくれないか」と頼まれても、“実力の世界だから”とあくまで選手たちを公正に扱う徹夫。
「監督さん、いいですか?」
主審にうながされ、補欠の欄のいちばん下に<加藤>と走り書きして渡した。
そのとき、バックネット裏で歓声があがった。振り向くと、四番バッターの前島くんの両親が <めざせ不敗神話 祈・20連勝> と書いた横断幕を広げていた。
徹夫は、相手チームのベンチに向かいかけた主審をあわてて呼び止めた。
メンバー表の<加藤>を二重線で消して、横に<長尾>と書き込んだ。
6年生最後の卒業試合。徹夫は記念に智を出場させてやろうかと一度は考えますが、迷った末、やはり監督として、実力の高い別の選手を選びます。
自分が出場できなくても、ベンチの横から選手に声援を投げかけ続けるまっすぐな性格の智。中学に上がっても野球部に入ると言う智に、思わず「レギュラーは無理だと思うぞ」と助言すると、智は「それでもいい」と言うのでした。
「三年生になっても球拾いかもしれないぞ。そんなのでいいのか?」
「いいよ。だって、ぼく、野球好きだもん」
たとえ下手でも、自分に活躍の場がなくても、“好き”という気持ちだけで野球を続けるひたむきな智の姿には、思わず心を打たれてしまうはず。
「がんばってもいいことなんてない」と言いがちな人にこそ読んでほしい、もう少しだけがんばってみようと思えるような作品です。メッセージ性が強く、文章もやさしいため、重松清入門の1冊としてもおすすめです。
中学生と社会人が、力を合わせて“カーリング”に挑む――『青森ドロップキッカーズ』森沢明夫
【あらすじ】
出典:http://amzn.asia/c4RMt4G
いじめられっ子の中学生・宏海、その同級生で、ちょっと悪びたところのある雄大、アスリート姉妹の柚果と陽香。個性豊かな男女4人の仲を結びつけたのは、“カーリング”だった……。
野球やサッカー、陸上といったスポーツに比べて競技人口が少なく、“マイナースポーツ”と呼ばれることも少なくないカーリング。森沢明夫の『青森ドロップキッカーズ』は、青森を舞台に、そんなカーリングに打ち込む4人組の姿を描いた物語です。
カーリングの面白さのひとつは、競技者の年齢層が幅広いこと。作中で主人公・宏海が組むチームも、同級生の雄大と、社会人姉妹の柚果と陽香によって構成されています。いじめられっ子だった宏海は柚果たちと関わることで、アスリートとしてはもちろん、人間としても大きく成長していきます。
「目に見えるモノはね、誰かに分けると、減ったり無くなったりするでしょ。でも、目に見えないモノは、その逆なの。誰かに分けてあげれば、どんどん増えていくのよ」
周りにそんな言葉をかけられ、自分が受けた優しさを人に返してゆく宏海の姿には、思わず胸を打たれてしまいます。物語の随所でカーリングのルールが細かく説明されるため、カーリングというスポーツのイメージがまったく掴めない、という人にもおすすめです。
おわりに
駅伝に野球、チア、カーリング……。競技やそのスタイルは様々でも、どの作品も、ひとつのチームが互いを高め合い、強くなっていく過程を描いた物語です。
それぞれの競技に興味がある人はもちろん、スポーツにまったく関心がないという人でも、仲間が協力し、傷つき合いながらも成長してゆく青春小説が好きならば楽しめること間違いなし。もしかすると、自分まで「週末、ちょっと走ってみようかな……」なんて思ってしまうかもしれません。ぜひ今回ご紹介した5冊を読んで、手に汗握るプレーを疑似体験してみてください!
初出:P+D MAGAZINE(2018/02/06)