# BOOK LOVER*第25回* 青木さやか
オシャレな本を部屋の本棚に飾りたい。『ルンルンを買っておうちへ帰ろう』を書店で手に取ったのは、そんなファッション感覚だった。読んでみて心底驚いた。大人の女性が食欲や性欲、セックスについて、こんなにもオープンに打ち明けていいなんて! まるでエロを活字で読んでいるような感覚。林真理子って何者!! 都会って凄い!
キャンティ、紀ノ国屋、帝国ホテル、村上開新堂。次々に登場する東京を象徴する固有名詞に、田舎の大学生だった私は大いに憧れを掻き立てられた。
数年後に上京して村上開新堂のクッキーを初めて食べたときは「これがルンルンに書かれていたあのクッキーか!」と感動した。
50歳になった今、久しぶりに『ルンルン』を読み返してさまざまなことを考えさせられた。華やかなバブルの東京はもう戻らないこと、今の時代だったら到底書けないであろうストレートな毒舌。今の時代の若い女の子が読んだらどう感じるのだろう? まったく想像がつかない。
ここ数年、私も文章を書くようになってわかったことがある。本には、その人の本当が詰まっている。当人が隠したい部分すらも、どこかしらに滲んでしまう。何かについてエッセイを書こうとすると、「あ、ここが私の隠したい部分なんだ」「ここはまだ解決できていないんだな」ということが最近わかるようになった。
ところが最後まで書き上げてしまうと、その問題は私の中でもうほぼ解決してしまうのだ。正確には、気持ちの整理がつく。だから読んでくださった方から「私も青木さんと同じ悩みを抱えていて」と相談されると、「すみません、私もう次に行ってますから」という感覚になってしまう。
話は変わるが、お笑いの仕事のいいところは欠点をさらけ出して芸に変えられるところだと私は思っている。実はこれってすごくラクなのだ。隠しごとをしたまま、日々ちょっとずつ嘘を積み重ねていくほうがずっとしんどい。癌になったときにそう痛感した。
「本をたくさん読みなさい。つらいときは本が助けてくれるから」
娘の学校の入学式で、校長先生がそんなことをおっしゃっていた。私も同感だ。読むことも書くことも、私を救ってくれる。娘は私の書いたものを一切読まないし、それはまったく構わないが、いつかどこかで読んだ本の一節が、彼女の悩みを解決に導くことがあればいいな、と願っている。
『ルンルンを買っておうちに帰ろう』
林 真理子 著(角川文庫)
それまではキレイなオブラートに包まれていた女の本音を、赤裸々かつエネルギッシュにさらけ出したエッセイ集。1982年刊行のベストセラーにして林真理子のデビュー作
青木さやか(あおき・さやか)
1973年愛知県生まれ。大学卒業後、フリーアナウンサーを経てタレントの道へ。バラエティ番組、ドラマ、舞台出の他、近年は文筆業でも活躍。2021年刊のエッセイ集『母』が話題に。他の著書に『母が嫌いだったわたしが母になった』『厄介なオンナ』など。
『50歳。はじまりの音しか聞こえない 青木さやかの反省』
青木さやか 著(世界文化社)おばさんタレントの現在地について。50歳目前のシングルマザーの身で味わう失恋の痛手。 癌サバイバーとしての本音、お金の悩み…。それでも「今日がはじまりだと思える毎日」がある。等身大の言葉で綴られた描き下ろしエッセイ集。