採れたて本!【エンタメ#15】

採れたて本!【エンタメ#15】

 十代のころ、自分の好きなものに救われた瞬間のきらめきを、私は今でも覚えている。たとえば学生時代、インターネットで知った本を買ったら面白くてこの先も生き延びようと思った経験とか、たまたま図書館で見かけた少女小説に感動しすぎて進学先を決めたとか、そういう瞬間のことを、私は今でも大切に思っているし、今の十代にもそんな経験があってほしいと願っている。──これまでさまざまなエンターテインメントを批評してきた著者がはじめて書いた小説である本書は、自分の好きなものや好きなことに出会うきらめきを、これでもかと描き尽くした物語である。

 本書の主人公は地方都市に住む男子高校生・理生。彼はひょんなことから、学校の教師、葉山先生から本を借りるようになる。彼女が貸してくれた本は、古いSF小説や海外の文学作品など、思いがけない面白さに満ちていた。しかし葉山先生はある日突然亡くなってしまう。葉山先生の死をめぐって、転校生の由紀子や、部活の顧問である樺山先生とともに、理生は奇妙な夏を過ごすことになる。

 本書に描かれているのは、地方都市に住む少年のうっすらとした退屈さと、それを救ってくれる本や映画やアニメーションの存在、そして世界の捉え方の問題だ。著者もあとがきで触れているように、本書はさまざまな創作へのオマージュに満ちている(これまで著者の批評を読んだことがある方はくすりと笑ってしまう元ネタもあるだろう)。小説、アニメ、映画、漫画。しかし物語はただのオマージュに終わることなく、その作品たちがいかに現実に退屈した少年少女を救ってくれるか、という点を伝えている。現実に絶望したとき、創作が見せる世界の広さや深さに救われた──そういった経験をしたことがある人なら、誰しも本書の言わんとすることが分かるはずだ。

 創作との出会いを通して、理生は現実世界の新しい見方を手に入れる。現実は変わらなくとも、現実に対する目の凝らし方を変えるだけで、私たちはいつでも変身することができるし、新しい世界に足を踏み入れることができる。そんな、まっすぐな希望を著者は読者に届ける。

 願わくは、いまの若い読者にとって、本書が退屈な世界を救う一冊になってほしい。

 創作は、まだ世界を救うことができるのだ。この小説は、そう、叫んでいる。

チーム・オルタナティブの冒険

『チーム・オルタナティブの冒険』
宇野常寛
発行:ホーム社 発売:集英社

評者=三宅香帆 

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