『禁忌の子』山口未桜/著▷「2025年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR

7時間も経つ
自分と同じ姿かたちの死体。
あまりに衝撃的な冒頭の謎は、新人離れした筆運びと読む者の感情を手玉に取る展開の妙により、やがて切実な物語を浮き彫りにします。
なにより現役医師である著者にしか描けない医療現場のディテールを、専門知識を交えながら読者に混乱なく提示する手腕は得難い才能です。
医療小説であり、本格ミステリであり、社会派でもある。
著者のミステリへの愛と、医師としてのひたむきな姿勢が伝わってくる本作を、どうぞお楽しみください。
……これは、『禁忌の子』発売前に、主に書店員のみなさまにお送りしたプルーフに、担当編集者のコメントとして書いた文章です。
ありがたいことに本作は本屋大賞の候補にノミネートされ、「小説丸」さんに『作品の魅力やご自身しか知り得ない作品制作の裏側など』を書く機会をいただきました。
ただ改めて作品の魅力は何だろうと考えたとき、これから読まれる方には、プルーフに書いたコメント以上のことをお伝えすると読書の興を削いでしまいかねないと感じています。
強いて付け加えるとすると、本作は鮎川哲也賞という、東京創元社が主催する新人賞の受賞作です。社内選考のタイミングで原稿を一読して、ずば抜けて完成度の高いこの作品がおそらく受賞するだろうと感じたことは覚えています。
その予感と同時に、ネタも筆致も辿り着く結末も全く異なるのですが、北川歩実さんの『僕を殺した女』という作品を思い出しました。
主人公の男性がある日目覚めると女性の姿になっていて、しかも記憶にある時間から5年の時が経っている。そのうえ、かつての自分と同じ顔と名前を持つ人間まで現れて……『禁忌の子』を楽しんでいただけた方はぜひ読んでみてください。本当に面白いです。
『禁忌の子』について読書の興を削がない範囲でお話しできるのはこれくらいですが、帯で刊行予告をした『白魔の檻』に関して、先日印象的な出来事がありました。
山口さんから『白魔の檻』の原稿をいただき、ブラッシュアップするべくオンラインで打ち合わせをしていたのですが、話を終えふと時計を見ると、開始から7時間以上経過しておりました。
山口さんにはお忙しい中長時間お付き合いいただいて大変申し訳ないと思いつつ、体感では2時間くらいだったのでちょっとしたタイムスリップをした思いです。
『禁忌の子』もそうでしたが、山口さんの作品には、読後誰かに自分の考えを話したくなる何かがあるように思います。
打ち合わせとはいえ気が付くと7時間経過していたという事実が、『白魔の檻』もそういった作品になっていることの証左だと思うので、楽しみにお待ちいただけたらと思います。
……と、山口さんに「小説丸」に何を書くか話している最中にこの日のことを書けばいいと思いついたので、打ち合わせ明けの勢いでこの文章を書きました。
『禁忌の子』はもちろん、2025年中に刊行するべく動いている『白魔の檻』のほか、これからどんどん作品を発表するであろう山口未桜さんの今後にご注目ください。

──東京創元社 金城 颯