まさきとしか『あなたが殺したのは誰』
断捨離を知らなかった私たち
モノへの執着は薄いほうだと思う。捨てられないモノは? と聞かれてぱっと思い浮かぶのは飼い猫くらいだが、猫はモノではない。
モノへの執着が薄いからといって物欲がないわけではなく、けっこうポチる。しかし、根がせこいのでセール品限定だ。ちなみに、昨日はバッグとカーディガンとパンツと盛大にポチってしまった。すべて80%オフだった。
こうして私は、ほんの一瞬だけの達成感と満足感を得るためにモノを買った。
あたりまえだが、モノを買うと、モノが増える。増えた分、何か捨てなきゃいけないと焦る。部屋にきちんと収まる分だけのモノを持つというのがいまのスタンダードらしいから。
バブルの頃はちがった。
最近、よくバブル期のことを思い出すのは、新刊『あなたが殺したのは誰』で、その時代の北海道の離島を描いたからだ。
バブルの頃、私は北海道の離島ではなく札幌で、無職とフリーターのあいだをふらふらしながら暮らしていた。冴えない日々を送る私には、テレビで観るバブルの光景はきらきらとしてめまぐるしくて別世界のようだった。
ジュリアナ東京のお立ち台で羽根つき扇子を持って踊るワンレン・ボディコンの女たち、クリスマスは高級ホテルに泊まってフレンチレストランでディナーを食べる恋人たち、ハイブランドで身を包んだOLたち、マンションや土地を買い漁る男たち。
あの頃は、モノを持つことが豊かで、値段の高いモノであればあるほどそれを持つ人の価値も高くなり、モノの量と質を兼ね備えることが幸せの象徴だと、時代の空気感に思わされていた。
部屋がモノであふれかえったら、もっと広いところへ引っ越せばいいくらいの勢いだった。
私たちはまだ、やがて「断捨離」や「ミニマリスト」という言葉が流行り、モノを持たない暮らしが豊かだとされる時代が来ることを知らなかった。
私はふと想像する。あの頃、ジュリアナ東京で腰を振っていた女たちはいまどんな暮らしをしているのだろうと。
おそらく私と同世代のはずだ。彼女たちも私のように80%オフのバッグをポチって喜んでいるのだろうか。そう考えると、バブルの頃は別世界にいた彼女たちが、およそ30年たったいまでは仲間のように思えてくる。
最後になりましたが、唐突に新刊の宣伝を。
『あなたが殺したのは誰』は、三ツ矢&田所刑事のシリーズ第3弾です。お読みいただけると80%オフのバッグをポチるより何倍も嬉しいです。
まさきとしか
1965年生まれ。北海道札幌市在住。2007年「散る咲く巡る」で第41回北海道新聞文学賞を受賞。著書に『完璧な母親』『大人になれない』『いちばん悲しい』『レッドクローバー』『玉瀬家の出戻り姉妹』など多数。『あの日、君は何をした』『彼女が最後に見たものは』と続く三ツ矢&田所刑事シリーズは累計50万部を超えるベストセラーになっている。
【好評発売中】
『あなたが殺したのは誰』
著/まさきとしか