◎編集者コラム◎ 『ザ・ロング・サイド』ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人
◎編集者コラム◎
『ザ・ロング・サイド』ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人
『ザ・プロフェッサー』4部作で老弁護士トムの生き方と仲間たちとの友情に熱い涙を流した皆さま、そしてスピンオフシリーズ第1弾『噓と聖域』で主人公ボーとともに喪失感から再生した皆さま。お待たせしました! 魂の弁護士ボーが活躍するシリーズ第2弾『ザ・ロング・サイド』をお届けします。
まず編集担当として本作のべらぼうな面白さをお伝えする前に、ボリュームを大にしてお知らせしておきたいことがひとつあります。
タイトルの「ザ・ロング・サイド」の「ロング」は「long(長い)」ではなく、「wrong(間違った)」の方です。どうかお間違えなく。え、表紙を見ればそんなのわかるよって? ……それは失礼しました! カタカナ表記のタイトルを見て「長方形の長辺の話?」なんて思われたら困る! と、つい、いらぬお節介を焼いてしまいました。
さて、前置きはこれくらいにして。
4部作と『噓と聖域』の5作を通して、トムとボーと仲間たちの物語を楽しんでくださった皆さま、実はこの地続きになったシリーズは、本作をもっていったん終了となります。ショックでしょうか? 私はそれを知ったとき、めっちゃショックでした。もう彼らの活躍が見られなくなってしまうなんて。心に大きな穴が空いてしまったような。そんな心境で届いたばかりの翻訳原稿を読み始めたのですが……第一部の冒頭からすっかりテンションはマックス、ボーのお約束の台詞を借りるなら「ケツの穴全開」で原稿をめくる手がエンジン全開状態になってしまったのです。
とにかく、そのかっこよさときたら。特に第一部「1」の最後の1行を読んだ途端、心の中で「キターーーーーーー!!!」と叫んでしまったほどです。
本作にはいくつか大きな要素がありますが、そのひとつがフットボール。前5作品の根幹とも言える要素ですが、今作ではその魅力が全開です。試合前のスタジアム控え室の描写に始まり、選手達のモチベーションが最高潮になっていく場面。続いて、もうひとつの大きな要素である音楽。試合後に行われた、地元の人気バンドのライブ描写のなんとかっこいいこと。会場の熱気が直に肌に伝わってきて、血が騒いでしまうではないですか……!
そんな最高にクールな展開で幕を開けた物語ですが、実は冒頭からすでに暗雲が立ちこめています。そして事件勃発。早く真相を知りたい気持ちと、やっと平穏な生活を手に入れたばかりなのに、自分が間違った側(ザ・ロング・サイド)に立つことになるかもという大きなプレッシャーに潰されそうなボーの行く末を案じる気持ちで惹き込まれ、気づくとほとんど一気読み。KKK発祥の地であるテネシー州プラスキという町の「いま」、特に黒人コミュニティの中での分断という複雑なテーマも織り込まれ、読み応えは抜群。ボーの法廷内外での熱い闘いに拳を握り、子どもたちの成長ぶりには涙させられ、まさに有終の美を飾るにふさわしい極上のミステリだと確信しました。
巻末の解説を書いて下さったのは、『ザ・プロフェッサー』を読んで号泣したという堂場瞬一さん。スポーツを愛する堂場さんならではの鋭い分析も必読です。そしてシリーズを通してずっと装画を手がけてくださった安藤巨樹さんによる、最高にかっこいい装画にもご注目ください。
著者渾身の法廷エンタメシリーズの最後、ぜひその目で見届けていただければ幸いです。
──『ザ・ロング・サイド』担当者より