◎編集者コラム◎ 『嘘と聖域』ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人

◎編集者コラム◎

『嘘と聖域』ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人


『嘘と聖域』写真

 どんなに巨大な困難にぶち当たっても、絶対に諦めない不屈の老弁護士トム・マクマートリーの熱い闘いを描き、本家アメリカのみならず日本でも多くの読者の心を鷲摑みにした、胸アツ法廷エンタメ『ザ・プロフェッサー』シリーズ。

 四部作完結編の刊行から約一年。読者のみなさま、お待たせしました! シリーズの中でもトムと並ぶ人気を誇る、トムの教え子にして親友、魂の弁護士ボーことボーセフィス・ヘインズを主人公にした新シリーズ第一弾『嘘と聖域』をお届けします!!

 四部作を読破された方は、完結編読了後にちょっと驚いたのではないでしょうか。いや、私はめちゃくちゃびっくりさせられました。なぜって、同じシリーズの四作で、共通の舞台や登場人物を描いているにもかかわらず、勧善懲悪の激アツエンタメ(第一作『ザ・プロフェッサー』)、重い社会問題をテーマにしたフーダニット(第二作『黒と白のはざま』)、死に直面した心象風景を描く荘厳なヒューマンストーリー(第三作『ラスト・トライアル』)、ラスボスとの死闘を活写するウエスタン調小説(第四作『最後の審判』)とそれぞれ趣がかなり異なり、さらにこの四部作がまるごと「起承転結」になっていたのですから。完結編を読み終えて、著者の仕掛けの見事さにやられた! と思ったのはきっと私だけではないはず。

 そんなロバート・ベイリーの新シリーズですから、ボーや無敵の検事長ヘレンなどお馴染みのキャラを登場させたからといって、同じパターンになるはずがありません。大きな傷を負った登場人物たちの再生、圧倒的不利な裁判をどう覆すか息を殺して見守るリーガルものならではのスリル、衝撃的過ぎる事件の真実とそれを追求する者たちの絆など、前シリーズの魅力はきっちり受け継ぎつつも、全編に漂うハードボイルド感、クールかつダークな苦み成分がたっぷりで、「胸アツ」を超えた、これまでに無い読後感を味わっていただけると確信しています。

 ちなみに、今作の原稿を読みながら思い出していたのは、昨年のアメリカ大統領中間選挙の争点になったいくつかの大きな問題でした。アメリカ、特に本シリーズの舞台・南部に昔から根強く横たわる問題の扱いについて、「ここまで……?」と衝撃を受けぞっとさせられることも。そんな、アメリカの暗部をえぐり出してエンタメに昇華させる著者の力はやはり並大抵のものではありません。ぜひそこにもご注目ください。

 そんな面白さ全開の本作、オビのキャッチコピーを考えるのは編集者の腕の見せ所なのですが、今回は「これしかないだろう!」と、あの名台詞を使わせていただきました。前シリーズ未読の方はひょっとしたら「えっ……?」となるかもしれませんが、そう感じられたらぜひぜひ本作を、そして前シリーズもお手にとってお楽しみ頂ければ幸いです。

──『嘘と聖域』担当者より

嘘と聖域

『嘘と聖域』
ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人

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