採れたて本!【エンタメ#19】
なぜ、日本には女性の総理大臣が誕生しないのか。素朴な疑問ではあるが、本当によくよく考えてみると不思議な気分になってくる。こんなに女性の社会進出が進む中で、政界におけるジェンダーアンバランスはいまだに改善されていない。しかし本書を読むと、その理由がよくわかる。性別というものを抱えながら、政治家として生きる、その困難と葛藤があますところなく刺激的に描かれているからだ。
4人の女性政治関係者から見た、ある女性国会議員の自殺が描かれる。「お嬢」と呼ばれる議員・朝沼は、まったくそんなそぶりを見せていなかったのに、ある日突然亡くなってしまった同じく女性議員である高月と死亡前日に言い合いする様子も報じられる。なぜ朝沼は亡くなってしまったのか? 批判殺到する高月の政治家生命は? そして高月や朝沼に関わる秘書やジャーナリストたちは事件をどのように感じているのか? タイトル通り「女性たちの国会」を綴った物語である。
かつてこれほど面白く「女性の政治家」を描いた物語があっただろうか? 本書を読むと、政治とは人間関係であり、そして権力闘争であることがよくわかる。主軸となるミステリー部分の真相には息を呑むが、なにより魅力的なのは、政治の世界で奮闘する女性たちの仕事っぷりだ。
女性たちは、けして共闘する様子を見せずに、共闘する。なぜなら共闘する様子を見せようものなら、男性たちが支配する政治世界において、すぐに蹴落とされるのは目に見えているからだ。しかしそれでも女性たちはひっそりと、強かに、自らの仕事をするために共闘する。その様子を読むだけで、胸に熱いものが広がる。
彼女たちの生きる場所は生温くはない。伸るか反るかの戦闘に満ちた、過酷な政治の世界だ。嫌な思いをすることもあるし、自分の生まれた境遇や属性を呪う日もある。しかしそれでもやりたいことをやるには、この世界で生きるしかない。──そんな覚悟を描ききる、作家の力量に脱帽する。
こんな物語が世に広がれば、きっと、女性の総理大臣が誕生する日も近いのではないか。そんな希望すら見せてくれる、素晴らしい小説が誕生した。
私たちは共闘できる。他人に望まれていなくても、認められなくても、それでもやりたいことをやろうとしてもいい、やりたいことをやるためにもっと怒ったり泣いたりしていいのだ、と本書は伝えてくれるのだ。
『女の国会』
新川帆立
幻冬舎
評者=三宅香帆