週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.147 くまざわ書店営業推進部 飯田正人さん
『死んだ山田と教室』
金子玲介
講談社
きょうは最近読んだ笑えながらも苦く切ない本を紹介します。金子玲介『死んだ山田と教室』という本です。本作はジャンルを問わず「面白ければ何でもアリ」でお馴染みのメフィスト賞(昨年は手話で会話できるゴリラが裁判で争うお話が選ばれているような賞です!)の第65回目を受賞しました。いったいどんなお話なのか。このように始まります。
山田は二年E組の中心でした。と通夜に参列した生徒は口々に語った。山田、まじでおもしろくて、山田がいるだけで、クラス全体がすげえ明るくなって、山田いなくなってまじ信じらんないっつーか、明日から二学期はじまるんすけど、どうやって過ごせばいいかわかんねぇっつーか、めちゃめちゃ不安っつーかーー。
おお、山田よ、一言もしゃべる前に死んでしまうとはかわいそう!と思っていると、その3日後、ホームルーム中に教室のスピーカーから山田の声が聞こえます。なんとどうやら山田はスピーカーに転生(?)してしまったみたいなんです。転生したら元いた教室のスピーカーだったなんて全然無双できそうにない。どこが耳に対応してるのかよくわかりませんが、こちらの声も山田に届いているらしく、教室にいるみんなと会話できます。不思議なことです。いや、この世には不思議なことなどなにもないのだよ、山田くん。ということなのでしょうか。
第一話「死んだ山田と席替え」は、スピーカー山田を受け入れたあと、山田の考案した「最強の二年E組の配置」に席替えをするという話。山田はクラスの中心の目立つ存在だっただけでなく、クラス全員の生活習慣や趣味などをよく把握しているんですね。「じゃあみんな、この通りに移動して」と担任。いいのかよ!と思わずツッコんでしまいましたよ。
この小説の読みどころのひとつは男子校ノリのくだらない掛け合いにあります。山田が事情を知らないひとの前でしゃべってしまうと学園ホラーにジャンルが変わってしまうため、山田と話すための合言葉が設けられました。何という合言葉か。
「おちんちん体操第二」
や!男子高校生っていうのはバカなので、こういう感じなんですよね(なぜわたしが弁護をしているのか?)。しかしこれしょうもないな!と思いつつ、ひょっとして毎回「ラジオ体操第二!」と同じアクセントとエネルギーで発話されてるのか?と思うとちょっと笑えてきませんか。この、あえて第二としているところ、実に男子高校生的な感性だと思いますね(本当かよ)。ところどころふふっと笑えると思います。
本作にはミステリ要素もあります。山田はなぜ死んでしまったのか。誰か山田が死んで得をしている人物の仕業ではないか?第二話の「死んだ山田とスクープ」では新聞部の2人がその謎を追いかけます。が、どうやらそれはメインテーマなわけではないようです。
第四話「死んだ山田とカフェ」では文化祭で山田カフェ(店員が全員山田のコスプレをする。なんて内輪ネタなんだ)をする話なんですが、学外で山田とバンドを組んでいたという女子高生が来店します。はからずもクラス内とは違った山田の評価を耳にしてしまう友人たち。青春と背中合わせの残酷さや切なさ、物語は徐々にそこに切り込んでいきます。
第六話「死んだ山田と最終回」で山田と二年E組の一年が終わります。山田は成仏(?)できるのかな、と思いきや、まだページはけっこう残っている。ここからが第二部っていうか、この小説のキモになってくるんですが、ここから先の山田と教室の顛末はぜひその目でお確かめください。
山田、まだそこにいるのかい?
・・・・。
「おちんちん体操第二!」
あわせて読みたい本
『桐島、部活やめるってよ』
朝井リョウ
集英社文庫
名前が入ってる高校モノといえば、本書を思い浮かべるかたも多いでしょう。わたし実はタイミングを逃していたのでこの機に読んでみました。バレー部のキャプテンの桐島が突然部活をやめてしまい、そこから周囲に少しずつ波紋が広がっていくという群像劇なのですが、共学特有の外見や運動神経の良さで「階級」が決まってしまう緊張感と、その空虚さと、あと各々抱えているものなどを見事に描いていてこれはみんなハマったのがわかるなあ、と今さら思いました。
おすすめの小学館文庫
『スクリーンが待っている』
西川美和
小学館文庫
小説誌「STORY BOX」に連載された、人気映画監督西川美和さんのエッセイ集。キャリア初となる小説を基に製作した映画『すばらしき世界』の裏話ほか、業界の悲喜交々がたいへん面白く読めて、西川監督の作品をひとつも観たことがなくっても映画ファンなら絶対おすすめです。とても良い本です。
飯田正人(いいだ・まさと)
書店バイヤーをしています。趣味は映画(年間100本映画館で観ます)。最近嬉しかったことは指導担当のお店が褒められていることと、自宅の台所の下にもうひとつ収納があると気づいたこと。