真梨幸子『ウバステ』
今日の常識は未来の非常識
ここ数年、昭和の常識を振り返り、若者たちが驚愕する……というようなバラエティ番組をよく目にします。
たとえば、タバコ。昭和時代はいつでもどこでも喫煙が可能で、電車の中はもちろん、飛行機も喫煙可でした。職場もしかり。
たとえば、電話。当時は固定電話で、誰が出るのかわかりません。だから、友達の家に電話するときも非常にドキドキしたものです。交際相手に電話するときだって、決死の覚悟が必要でした。
たとえば、個人情報。芸能人の自宅住所が週刊誌に載っているのは当たり前で、一般人の個人情報もばんばん出回っていました。読者や視聴者から来たハガキを名簿屋に売り飛ばす行為も珍しいことではありませんでした。そもそも、住民基本台帳を誰もが自由に閲覧できた時代です。
たとえば、ペット。犬も猫も外で飼うのが常識で、雨の日も風の日も、短いリードで繋がれたワンちゃんをそこらじゅうで見かけました。
そして、セクハラ。男性社員は挨拶がわりに女子社員のお尻を触り、職場にはヌードカレンダーが貼られていました。
これらを言うと、若者は目を丸くします。
「マジで!?」
昭和生まれ、昭和育ちの私ですら、当時にタイムスリップしたら、
「マジで!?」
と身震いすることでしょう。とくに、セクハラは、ひどかった。私もしょっちゅう、お尻を触られていたものです。でも、それが当時の常識で、それを抗議するとこちらが変人扱いされていたのです。
このように時代時代で〝常識〟は変わるものですが、長年変わらないものもあります。
それは、〝小説〟の売り方です。小説は、小説の中身のみで勝負するもの……という常識があります。当たり前っちゃ当たり前なのですが、でも、私、ずっと前から思っていたんです。「小説に付録をつけたらどうかな?」って。そう、付録商法を小説でもやってみては?と。
その長年の野望が、今回、いよいよ現実のものとなりました。なんと、『ウバステ』には「終活ノート」という付録がついているのです!
これが、吉と出るか凶と出るかはわかりません。
それでも、常識を疑い、それを打ち破るという挑戦を笑わないでください。
今、常識とされているものこそが、未来の笑い物になるかもしれないのですから……。
真梨幸子(まり・ゆきこ)
1964年宮崎県生まれ。多摩芸術学園映画科卒業。2005年『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年に文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』がベストセラーとなる。他の著書に『女ともだち』『人生相談。』『5人のジュンコ』『鸚鵡楼の惨劇』『祝言島』『聖女か悪女』など多数。
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『ウバステ』
著/真梨幸子