嶽本野ばら『ピクニック部』

嶽本野ばら『ピクニック部』

還暦でロリータデビュー


「倍返しだ!」が決め台詞のあのドラマを、最近初めて観たのですけど、面白さがイマイチ解らなかったのですよ。

 多分、組織に属したことなく上司や先輩、仲間に忖度をせぬまま56歳、現在に至るからだと思います。

 とはいえ僕だって、ストレスは抱えます。可愛いものが好きなので日頃、女子すら入るのが躊躇われるショップにズカズカ入っていたのですが、40代になると、流石にオジサン(未だ間違われますが嶽本野ばらは男性です)が覗くとお店の雰囲気を悪くするだろうなと忖度、自粛するようになった。

 そして50代に突入。執着を断たねばと絶望に至ったのですが、三つ子の魂なんとやら、「初老で可愛いを愛して何が悪い!」厚顔にも僕は開き直ってしまったのでした。

 そんな自分の履歴を反映させたのが還暦でロリータデビューする女性が主人公の「こんにちはアルルカン」。「ブサとジェジェ」という短編と共に『ピクニック部』に収録しました。

 表題の「ピクニック部」は高校のワンダーフォーゲル部に所属している主人公達がある理由からクーデターを起こしピクニック部なるものを立ち上げる長編ですが、彼等が反乱を起こす理由は〝可愛い〟を尊重する──が故です。

〝可愛い〟を文学の主題にするのが邪道であるは解っているつもりです。

 でもそれにしか僕は自分の人生を賭けられないし、興味がないので仕方ないではありませんか。

 40代では〝可愛い〟を自粛せざるを得なかったので、ここからは忖度なく〝可愛い〟を倍返し! なのです。

『ピクニック部』──タイトルが可愛いでしょ?

 装丁もタータンチェックで可愛くして頂きました。

「こんにちはアルルカン」の中で還暦を迎えた女性に僕はこう言わせています。

「可愛いって涙が出るものだったんだね」──。

 可愛いを我慢するとストレスが溜まり心の機能に影響を及ぼし免疫力も下がります。

 きっと近い未来、医療も〝可愛い療法〟に注目しますよ。その時はノーベル生理学・医学賞を頂きたい。医師も看護師も全員ロリータの病院、そこで人生の最期を迎えられたなら素敵だなと僕は真面目に思います。

 


嶽本野ばら(たけもと・のばら)
京都府宇治市生まれ。1998年にエッセイ集『それいぬ──正しい乙女になるために』でデビュー。2000年に初の小説集『ミシン』を刊行。03年『エミリー』で、04年『ロリヰタ。」で三島由紀夫賞候補。主な著書に『鱗姫』『下妻物語』『ハピネス』『純潔』、エッセイ集『ロリータ・ファッション』などがある。

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ピクニック部

『ピクニック部』
著/嶽本野ばら

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