◎編集者コラム◎ 『白夜の警官』ラグナル・ヨナソン 訳/吉田 薫
◎編集者コラム◎
『白夜の警官』ラグナル・ヨナソン 訳/吉田 薫
ある日、Twitter を眺めていた担当編集は驚愕しました。PC画面を二度見三度見しました。それでもその「つぶやき」は確かにそこにありました。
──あの! 小島秀夫さんが! 「警官アリ = ソウル」シリーズを! 読んでくださっている! さらには! 「胸熱」とまで!! おっしゃっている!!!
担当編集は舞い上がった勢いで筆を執り、小島さんにお手紙をしたため、ずうずうしくも「警官アリ = ソウル」シリーズ最新作である本書『白夜の警官』の解説原稿の執筆をお願いしたのでした。
世界的ゲームクリエイターである小島秀夫さんは、翻訳ミステリ好きとしても有名。そんな読み巧者による解説は、「あなたはまだ、北欧ミステリの魅力を十分に知らない。」という一文から始まる、じつにじつに熱く、愛あふれるものでした。
アイスランド最北に位置する住民千人強の小さくも平和な町シグルフィヨルズル。南部の噴火の影響で、国内に火山灰による暗雲が垂れ込める中、郊外で男性の撲殺死体が発見されます。所轄として走らされる警官アリ = ソウル、上司のプレッシャーと闘う女性ジャーナリスト、慈善家の仮面を被り大金を隠していた被害者、脅迫めいたメールに追い詰められていく同僚、そして暗闇で助けを求める少女……。
本書には「絶対的な正義」「絶対的な悪」という存在は登場しません。言ってみれば「正義」と「悪」がマーブル模様に絡まり、その比率がそれぞれ違うだけ。主人公である警官アリ = ソウルですら、「正義」だけが行動原理ではないのです。(衝撃のラスト!)
小島さんは言います。「人として生まれた者が、環境によって犯人にされるのだ」と。「ホームズも、ポアロも、金田一耕助も、事件現場を訪れ、解決して去って行く」「しかしアリ = ソウルたちは、事件が起きた環境に飲み込まれて、そこであがく。深い雪と火山灰に覆われた場所で、事件に向かいあうしかないのだ」、そうした人間の「運命や業」が描かれていることこそが北欧ミステリの魅力なのだと。
謎解きのカタルシス、サスペンスの緊張感、端々にちりばめられた伏線の鮮やかな回収という、ミステリとしての面白さに加え、生まれ持った不遇を抱えた人物たちがどのように運命を切り拓いていくのか。そこに自分の想いを重ねる読者も少なくないはず。
このコラムを読んで興味を覚えたあなたへ。最後に、小島秀夫さんのこの言葉を。
「もしあなたが、北欧ミステリの入口で立ち止まっているなら、迷わずに本作を購入して読むべきだ」「入門書でもあり、マニアを唸らせる傑作でもある」。