ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第7回
漫画家の真の修羅場は、〆切りなどではない。
そろそろ怒られそうな気がするので、今回は催促が来る前にこの原稿に着手している。
だが今回は〆切りなどより遥かに大きな問題に直面することとなった。
書くことがない。
これは私だけではない。おそらく作家の多くが抱えている問題であり、むしろ書くことがないから〆切りに間に合わなくなるのだ。
つまり、作家の現場で起こる事故の大半はこいつが引き起こしていると言っても過言ではない。
漫画家の修羅場と言ったら、KISSのコスプレをした担当編集に見守られ、レッドブルの要塞に囲まれた作家が徹夜でひたすらガリガリ原稿を描き、足元にはアシスタントの死体が2、3体ころがっているという図を想像するかもしれない。
だがあれは、真の修羅場は越えた、ただの敗戦処理映像である。
作画に入っているということは、すでに描くことは決まっている状態なのだ。
描くことさえ決まっていれば、描けば終わるし、どのぐらいで終わるのかも大体わかるのである。
だが「描くことを決める作業」いわゆる「ネタだし」というのは、いつ終わるのか全く予想がつかない。
すぐに出ることもあるが、逆に一生出てきそうにない時も多い。ここでつまずくから作画時間が圧迫され、上記のような事故映像が流れてしまうのである。
遅筆な作家、というのは物理的に描くのが遅い者もいるが、どちらかというとそれ以前のフン詰まりが激しすぎる者の方が多いのではないだろうか。
だが、そういうタイプは自身への作品へのこだわりが強いとも言える。
私などは、〆切り最優先なので、あまりパッとしたことが思い浮かばなくても「もうこれでいいや」とそのまま発進してしまう。