採れたて本!【海外ミステリ#33】

あのメイド、モーリーが帰ってくる。ニタ・プローズ『メイドの推理とミステリー作家の殺人』は、モーリーを主人公としたシリーズの第二作だ。
第一作『メイドの秘密とホテルの死体』は2022年に邦訳された。社会性に乏しく、他人との会話が時折噛み合わないが、仕事は徹底的にこなすメイド、モーリーが、客室の掃除中に悪徳富豪の死体を発見してしまい、トラブルに巻き込まれるというのが大体のあらすじだ。モーリーのズレた会話が絶妙なユーモアを生み出し、「今気になるの、そこ?」と思わずツッコミたくなるような地の文も大いにツボだったが、特にびっくりしたのが結末である。相撲の決まり手にちなんで「うっちゃり」とでも表現したくなるようなヌケヌケとしたオチが用意されていて、舌を巻いてしまう。
だからこそ、まさか続編が出るとは──というのが最大の驚きだったのだが、それにとどまらず、第二作はさらに賑やかに、軽快なミステリーになっている。
モーリーの勤めるホテルでは、人気ミステリー作家、J. D. グリムソープの会見が行われる予定だった。とある秘密を公表するものだという。しかし、お茶会の最中に作家は毒殺される。疑惑は新人メイドと作家の個人秘書に向けられた……という筋書きで、女性刑事スタークに意外にも一目置かれながらのモーリーの推理行を味わうことが出来る。ここは、あくまでも正統派の味付け。小説家×ホテルの組み合わせに、東野圭吾の〈マスカレード〉シリーズ最新作『マスカレード・ライフ』を重ねてみてもいいかもしれない。ビブリオミステリー的なエッセンスを華やかな舞台で演出する試みが面白い。
ところが、それで終わらないのが、我らがモーリー。現代の事件を描くパートとは別に、「あの頃」と題されたパートでは、モーリーとグリムソープの過去が描かれる。モーリーはグリムソープのサイン会のシーンで〝わたしはぜんぶ憶えているのに、向こうは憶えていないなんてことがありうるのだろうか?〟(p. 43)と地の文で疑問を呈しており、ここからギアが一段上がる感覚がある。「あの頃」のパートで語られるモーリーと祖母の過去は読み応え十分だ。それは第一作の読者が知りたかったところでもある。グリムソープとの会話にもグッとくる箇所がいくつもあって大変にズルい。
二つのパートを往還する物語は、これまた意外に正統派の謎解きを経たり、物語の冒頭から引っ張った謎も思いもよらぬ結末を迎えたりと、またしてもニタ・プローズらしい一癖ある畳み方をしてくれる。本国では続編も刊行されているようだ。こちらも邦訳されないだろうか。
評者=阿津川辰海