◎編集者コラム◎ 『たとえば、葡萄』大島真寿美

◎編集者コラム◎

『たとえば、葡萄』大島真寿美


『たとえば、葡萄』写真

 この仕事に就くずっと以前から、大島真寿美さんが描く、大人の女性たちを応援する小説が大好きだった。故に、大島真寿美さんの担当になってからずっと、そういう小説を書いてください、とお願いし続けた。ちょうどその頃、大島さんの心と頭はまさに江戸時代に在って「うーん、なかなか頭が現代に戻ってこれないのよ~」とおっしゃっていた。が、何度も何度も拝み続けた。そして、奇跡の扉が開いた。きっかけはコロナ禍だ。突然大島さんが「今なら、書ける。いや、書かなくちゃいけない!」とおっしゃり、半信半疑のまま、大島さんからリクエストのあったぶどう農園兼ワイナリーを探し出し、取材に出かけた。

 面白かったのは、取材翌日の朝。大島さんは、朝から目をらんらんと輝かせて「夢の中に、市子や美月、三宅ちゃんやせぶん、みんなが出てきて、それぞれが私に話しかけるのよ~。もううるさいったらありゃしない!」と。以前の「虹色天気雨」シリーズの登場人物たちがかなりリアルに登場して、口々に現在の自分について語り出したのだという。

 作家さんの頭の中って、なんて面白いんだろう!!!

 もう、それからは驚きの連続。そして、面白いことの連続。作家さんに「降ってきた」瞬間も、目の当たりにした。小説を作っていくって、なんて面白いんだろう!!

 そしてできあがった本作品。実に大島真寿美さん12年ぶりの書き下ろし新刊だった。

 今回、その作品が待望の文庫化となった。解説でお願いしたのは、大人の女性の味方・有働由美子さん。有働さんの原稿を拝読して、もう、びっくりした。「座布団一億枚!!」そう叫んでいた。そのくらい、有働さんの解説には共感し、感激し「そう、そう、そうなんです!」と首がもげるほどうなずきながら、私は涙まで浮かべていた。

 カバーイラストは水上多摩江さん。このイラストが大好きで、私は原画を額装までしてしまった。この水上さんも、『たとえば、葡萄』のように、なんと山中での移住生活をスタートすることになった。

 小説の中でも外でも、人々の人生は続いていく。そして、小説世界の中でも外でも、この世界は本当に面白い! そんな、毎日が愛おしくなるような、愛着ある日用品のような一冊。是非、この世界をのぞきに来てください。

 ──『たとえば、葡萄』担当者より

たとえば、葡萄
『たとえば、葡萄』
大島真寿美
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