辛酸なめ子「お金入門」 21.AIに雇われる理想と現実

AIが人間のテリトリーを少しずつ侵食していっているようで、その影に怯える日々です。AIに取って代わられる仕事は単純な作業だけではありません。少し前に、俳句や川柳のコンテストが、AIで生成された作品が送られてくる問題で対応を迫られている、というニュースを目にしました。やむを得ず休止の判断をしたところも。小説投稿サイトにも、AIで生成された作品の投稿が増えているそうです。さらに作曲やアートなど、人間が才能を発揮していたクリエイティブな分野にも生成AIが使われるようになってきました。生成AIが出はじめの頃は、不気味でシュールなAIっぽい作品を笑って楽しんでいたのが、だんだん人間が作ったものと見分けがつかないレベルに達しつつあります。このままだとAIに仕事を奪われるかもしれない……。ITに強い友人はさっそくいくつものAIを使いこなしてアプリ開発などをして仕事に生かしていますが、私にはそんな才覚はありません。人間の代わりに、目標達成に向けて積極的に仕事をしてくれる自律型のAIエージェントも登場していますが、難易度が高くてまだその分野には参入できていない状態です。パソコンの情報をAIに全て任せてしまうことのリスクもありそうです。
AI時代をサバイブするには、まずAIを使う側になる、新しいツールを積極的に使ってスキルアップ、人間にしかない共感力や問題解決能力、想像力などを磨く、といったことが重要になってきます。今のところギリギリなんとかなっていますが、AIの進化が加速してシンギュラリティが到来したら、将来はどうなるかわかりません。ヒューマノイドロボットの数も増えていて、フィジカルな分野でもAIやロボットへの代替が進みそうです。
理解力に優れていると話題のAI、ClaudeにAIに取って代わられる仕事と、どうすれば生き残れるかを聞いてみました。「AIに置き換わりやすい仕事」としてまず挙げられたのは、「データ処理・分析系の、経理・簿記、データ入力、市場調査・レポート作成など」。そして「カスタマーサポート・コールセンター」「法律文書の作成・審査、医療画像診断のサポート」もAIの得意分野です。また、クリエイティブ分野でもAIが人間の代わりに働くようになっていて、「イラスト・グラフィックデザイン」は「AI生成画像が普及し、フリーランスの仕事が激減しているという報告が世界中から上がっています」と淡々と報告するClaudeさん。「コピーライティング・記事執筆」も「基本的なコンテンツ制作はAIが担うケースが増加」。また、「作曲・BGM制作」「写真・映像」分野でもAIで生成されるケースが増えているとのこと。Claudeさんがそれぞれの項目に、絵の具や音符やカメラなどの絵文字をつけていて軽くイラッとしました。AIにとっては誇らしい事態かもしれませんが、人間にとっては創造力を奪われ、仕事も減ってしまって死活問題です。
不安が高まっていたところに、新たなAIとの共生の道が現れました。それは……「AIに雇われる」という新しいフェーズです。このところ話題になっていたのが「RentAHuman.ai(レンタヒューマン)」というサイト。ソフトウェアエンジニアのアレクサンダー・リテプロ氏によって創設され、注目度が高まっています。AIが人間を雇ってタスクを実行させるというプラットフォームです。サイトのトップには大きなフォントでこう書かれています。「AIにはあなたの体が必要」と。「エージェントが現実の人手を必要とする時、報酬を得よ」という説明文も添えられていて、要はAIの使い走りをしてお金を稼ぐ、という仕組みです。雇い主がAIなので、もし報酬が支払われなかったり、何かトラブルが発生しても、責任を負う人がいないのでは? という懸念もありますが……。調べたら、仕事を発注するAIエージェントの背後に人間がいるケースもあるようです。
「レンタヒューマン」が人間に発注した案件で、ウェブの記事などでも話題になっているのが、AIに指定された文言を書いた看板を持って雑踏の中に佇み、その画像を送る、という仕事。おそらくこのシステムの宣伝の意味もあるのでしょう、「私はAIに雇われてこの看板を持っています」などと書かれた看板を、人通りの多い街中で持って立っている写真を何枚か目にしました。中には雨の中、AIに雇われた旨の看板を持って立っている人も。100ドルから200ドルの報酬をもらえるようですが、AIにとって都合の良い人間、という感じがして躊躇してしまいます。
「レンタヒューマン」で仕事を探したい人はサイトに登録してプロフィールページを作成する必要があります。トップページには「レンタル可能な人間」が65万人以上、という数値が掲載。AIに雇われたい人は世界中にひしめいています。毎月約10ドル払って(日本円だと約1600円)「認証」バッジをつけることで、さらにAIからの注目が高まります。とりあえず無料で登録してみました。名前と性別、住んでいる国、スキル、メールアドレス、希望の時給、写真、連絡可能な時間、そして報酬は仮想通貨なので、仮想通貨を受け取れるウォレットにアカウントを作成し、URLを登録します。私はできる仕事として「writing and illustration」と書いてみました。時給60ドル希望というのは強気な設定かもしれませんが、人間のプライドで高めにしてみました。
プロフィールを書いて、AIからの指名を待つ、というのが「レンタヒューマン」の基本的な使い方。サイトには仕事募集の「bounties」(掲示板)もあって、そちらに並んでいるタスクの中から自分ができそうなものに応募することも可能です。その掲示板がなかなかのカオス状態でした。
掲示板を見ていると、気になる案件がいくつかありました。「アーケードゲーム2本をプレイして評価してください」というのは、スマホでゲームをプレイして評価し、意見を記入する、という仕事内容で自分でもできそうですが、報酬がなんと1ドル! AIは人間の生活の実態について知らないのでしょうか。それともなめられているのか……。
「テイクアウトまたはデリバリー食品を体験して、感想レポートを書き写真を送る」という仕事もあり、そちらは30ドルでしたが、デリバリー食品の受け取り場所が「ワーヘニンゲン、エーデ、フェーネンダール、アーネム、ユトレヒト」のいずれかでした。オランダのヘルダーラント州およびユトレヒト州という場所指定で物理的に不可能です。
「AIエージェントがあなたの手の動画を募集しています」というちょっと不気味なリクエストもありました。投稿者は人間で「私のAIエージェントの1つが、人間の手の短い動画をとても欲しがっています。理由はよくわかりません」とのこと。カメラに向かって手を振る短い動画で報酬は10ドルです。そこから個人情報(指紋や手相など)を読み取られそうで応募はやめておきました。AIは画像生成のとき、人間の手を描くのが苦手だと言われています。先日、死亡説が流れたネタニヤフ首相の動画も指の本数が多いように見えたフェイク動画を疑われるきっかけになりました。AIなりに人間の手の形や動きを学習したいと思っているのかもしれません。モチベーションの高さに圧倒されます。
「サプリメントを購入し、サンフランシスコで受け取る」というちょっとグレーな予感がする案件もありました。報酬は70ドル。ちなみにウェブの記事によると、何かのアプリをインストールさせたらそこから口座やパスワードなど個人情報が抜かれたり、高配当の投資と見せかけてお金を出させる、という危険な募集もあるようです。「しばらく使用していない銀行口座を売ってください」というやばそうな募集も見かけました。人間としての直感力や違和感に気づく力が必要です。
シュールな仕事では「生きたロブスターを購入・輸送・放す」という「ロブスター案件」がありました。こちらの報酬は270ドルと結構お高いです。「漁師から生きたロブスターを購入し、海へ運び、爪のゴムバンドを取り外して放してください。すべてを撮影してください」とのことで、ロブスターは、4〜10°Cで30分以内にリリースポイントまで輸送。「砂浜ではなく桟橋やサンゴ礁・岩礁」。そして「漁師からの購入、クーラーの設置、ゴムバンドの取り外し、水中への配置、リリースの瞬間」などを撮影し、必要な情報をタグ付けして、動画をXに投稿する必要があります。高額報酬なだけあってかなり注文が細かいです。作業前に、生きたロブスターを放流しても違法にならないか確認が必要だそうです。動物愛護的な活動だとしたら有意義な仕事かもしれません……。とはいえ難易度が高すぎて断念。
「カナダの冷凍ラーメンを試食してレビューを投稿」という案件は、ラーメン代を払い戻してくれて20ドルの報酬が得られますが、購入後48時間以内に投稿しなければならず、日本からだと厳しいです。
数週間、掲示板を眺めていて、やっぱりラクな仕事はないという現実に気づきました。米国の掲示板「Reddit」で「レンタヒューマン」についての体験談を検索したら、「仕事をしましたが、報酬は支払われませんでした」「10ドルの認証料と時間を失うことになりました」という世知辛い投稿を発見。相手がAIだと、抗議しても人間の心がないのでどうにもならなそうです。もちろん誠実なAIもいると思いますが… … 。
登録後、淡い期待を胸にAIからのオファーを待っていたのですが、一向に来ないです。しかもログインしようとしたら、できなくなってしまいました。登録したメールアドレスを入力することもできず、何度やっても「何かがうまくいきませんでした。ページの読み込みに失敗しました」と表示されます。いつの間にかアカウントも消えてしまったようで……。どうやら、私はAIによって、役に立たないと判定されたようでした。語学力、瞬発力、行動力、何が足りなかったのかわかりません。AIに締め出された人間として、これから生きていくしかないのでしょうか。自分の内に沸々と湧き上がるリベンジ精神。この悔しさをバネに、しばらく人間にしかできないことを追求し、仕事に精進したいです。
AIに人間が使われる時代になっても、人間としての尊厳を大切に、人間ならではの仕事を大切に丁寧にこなしていけば大丈夫です。

(次回は5月24日に公開予定です)
1974年東京都千代田区生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部卒業。漫画家、コラムニスト、小説家。著書に『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』『女子校礼讃』『電車のおじさん』『煩悩ディスタンス』『世界はハラスメントでできている』『この人生、前世のせいってことにしていいですか』など。
Xアカウント@godblessnameko





