◎編集者コラム◎ 『海近旅館』柏井 壽
◎編集者コラム◎
『海近旅館』柏井 壽
仕事や対人関係でなんとなく疲れてしまったとき、非日常を味わいたい、現実から逃れたい……と思うこと、ありますよね。旅行で気分転換をする人も多いでしょう。昨今では、宿泊する際、旅行サイトの評価や口コミなどを参考にホテルや旅館を選ぶことができます。評価が低いところは、ほとんど選びませんよね。サービスや設備が"いまいち"と言われてしまった宿は、どうなるのか……。そんな"いまいち"と言われた宿を、なんとか立て直そうと若女将が奮闘する物語を『鴨川食堂』の著者が描いたのが、今回刊行された『海近旅館』です。
主人公の海野美咲は、母が亡くなったことにより、静岡県の伊藤にある実家の旅館を継ぐことになります。旅館は部屋から海が一望できることが売りでしたが、美咲が若女将を務めてからは、どうも客入りがよくありません。板長の父も腕は悪くないのですが、母を亡くしたことにより、やる気がでない様子。兄に至っては、仕事を放棄して遊びに出かけることも……。経営難に陥るのは当たり前という状況で、美咲は旅館をなんとか残すべく、できることをやろうと決意します。
ある日、美咲は智也という流れの料理人に出会います。初恋の人に似ていた智也に、どこか心がざわつく美咲。料理がうまい智也とともに、旅館の新たな強みになるような料理を考案していくことに……。
智也との出会いが、美咲と旅館の今後を左右することになるのですが、それはぜひ本作を読んでお楽しみください。
文庫化にあたり、著者の柏井壽さんが厳選した、8名宿のエッセイも掲載しています!どちらのお宿もとても素敵で、行きたくなること間違いなしです。
非日常を感じる旅館という空間。そこには家族や友人、恋人との思い出になり得る体験があります。今はコロナウイルスの影響で、数え切れないほどの旅館やホテルが打撃を受けているのかと思うと、とても胸が痛みます。
どうかはやく終息しますように……!