ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第48回

ハクマン48漫画というのは、担当が
「催促し飽きない」
ことで成り立っている

今この原稿を、担当の催促メールを受けてから書いている。

多分、読者もこの書き出しに飽きていると思うが、俺だって書き飽きているし何より担当も催促し飽きていると思う。

しかし、漫画というのは担当が「催促し飽きない」ことで成り立っているのだ。
もし編集者が原稿の催促に飽きてしまったら、皆さんが昔から楽しく読んでいるジャンプだって暮しの手帖ぐらいの厚さになっているはずである。

ちなみに、私はコラムの連載を受ける時は「毎回テーマやネタをくれ」と頼むことが多い。

ただ「何でもイイ、もう単語でもいいから」と言った結果「宇宙」というテーマで2000字書く羽目になったこともあったが、何もないよりはマシである。

エッセイというのは生活そのものがネタなのだから、書くことがなくなるなんてないように見えるかもしれないが、私は毎日ほとんど家から出ないし、誰とも接しないし、やっていることも毎日同じなのだ。
食事さえも「白い粉とパスタ」と、毎日同じなため「昨日見た夢」に次いでエッセイの禁じ手である「今日食った飯」の話すらできない。

これで毎日書くことがあるというなら、それはもう七色の幻覚を見はじめているか、自分にしか見えない「先生」と呼んでいる存在から知見を得ているとしか思えない。

よって「宇宙」でもいいからテーマが欲しい。
むしろこの「宇宙」なら、そんなテーマを寄越す担当への殺意で5行ぐらい稼げるし「野球」「政治」「宗教」に比べたら圧倒的にケンカが起こりにくい。

むしろ「宇宙」というテーマで人でケンカが売れる人間に地球は狭すぎると思うので、Z戦士のように文字通り宇宙を舞台に戦って欲しい。

だが、実はこのコラムはテーマなしで書かれている、もしくは毎回「催促」がテーマだ。

テーマがないので、催促を受けてすぐ、即興のフリースタイルダンジョンに挑まないといけないため、大体半分ぐらいでリアル迷宮状態に陥ってしまう。

よってこの連載にも何らかテーマが欲しいところだが、おそらくこのコラム担当は「漫画担当」をしたことがないのだ。
もし漫画担当経験があって、今まで1本もネタを寄越さなかったというなら、その怒りだけで3本ぐらい書けるが、多分ない、ないと信じたい、まだ人間に絶望したくはない。

そもそもこのサイトのタイトル自体が「小説●」であり、漫画家が存在している方が不自然だのだ。
ワザとではなく、マジでこのように変換されてしまったので●の中には、各々考え得る限り最も卑猥な言葉を入れてほしい。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◇自著を語る◇ 風野真知雄『お龍のいない夜』
福徳秀介さん(ジャルジャル)第1回 インタビュー連載「私の本」vol.11