『お探し物は図書室まで』青山美智子/著▷「2021年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
靴の中の小石を取り除く
私は一昨年、ポプラ社に転職してきました。
前の会社で長らく小説の編集をしていたのですが、産休後、別の部署へ異動となり、二年ほど腐った生活を送っていました。今作の三章の主人公と同様、心身ともに不安定な日々でした。
本に関われないことが悲しくて、大好きだった書店に行くことも、小説を読むことも、辛くてできない時期が続きました。それでも、慣れない育児と新しい仕事に追われ、毎日が過ぎていきました。
本に携われないなら、別の仕事に転職しようと考えました。本が好きなら、趣味で本を買って余暇に楽しめばいいじゃないか。でも、心と体が動かず断念しました。
「なぜ本に携わる仕事をしたいのだろう」「自分にとって仕事とは何だろう」と考える日々が続きました。
新しい仕事や育児に慣れ始めた頃、家にある本を開いてみました。改めて読んでみると、前読んだ時とは異なる部分に心が動くことがありました。本を読むことで、今の自分の心の在り方や形が分かるようでした。
その後、縁があって、ポプラ社に転職し、編集に戻ることができました。書店にも明るい気持ちで足を運べるようになった時に出合ったのが青山さんの本でした。
ネガティブ思考の私は青山さんの本に描かれている「日常に隠れている楽しいことや幸せなことを探し出すアンテナの感度」に感銘を受けました。青山さんに「仕事」をテーマにしてほしいとお願いして、『お探し物は図書室まで』が出来上がりました。
この物語は仕事や人生に悩む五人の老若男女が出てきます。一章ずつ原稿を頂いたのですが、どの物語にも、自分がいました。
青山さんは取材で「誰でもあって誰でもないような人達の〝靴の中の小石〟を描きたい」とおっしゃっていました。他人から「気にしすぎだよ」と言われてしまうような、些細なことかもしれないけれど、自分にとっては見過ごせないモヤモヤを抱えている方に、この本を手に取っていただけたらと思います。
コロナ禍で、日常も働き方も変わりました。これからの人生を、どのような道順で歩み、どのようなもので満たしていくのか。本当に探しているものや迷っていることのヒントになったり、明日への活力になったりすれば嬉しいです。
「仕事は、自分じゃない誰かが、それによっていい思いをすること」という、取材時の青山さんの言葉が印象に残っています。自分が動いたことが、見知らぬ誰かに繋がっていると信じて、これからも仕事をしていきたいと思います。
──ポプラ社 文芸編集部 三枝美保
2021年本屋大賞ノミネート
『お探し物は図書室まで』
著/青山美智子
ポプラ社
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