ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第64回

ハクマン第64回SNSでの宣伝は不可欠だが、
「平日の夜中12時」の
ツイートとはいかがなものか。

他社仕事で恐縮だが、これを書いている本日は拙作の漫画単行本の発売日である、ちなみに御社S学館の連載は昨日打ち切りで終了した。

このように、漫画業界のスピード感は増すばかりである。
数年前まで「2巻でエンジンがかかるかもしれない」と様子見してもらえている感じがしたが、最近は1巻が発売して1か月ぐらいで「てめえにやるガソリンはもうねえ」となってしまうのだ。

ただ唯一良くなったのは、コロナウィルスの影響で電子のシェアが大幅に増え、連載の継続判断を紙の売上だけでされる、ということがあまりなくなったという点だ。

もちろん紙は売れてないが電子はメチャクチャ売れている、というのは稀で、紙が売れてなければ電子も売れないのが普通なのだが、読者に「できれば紙で買ってほしい」と言わなくて済むのがいい。

「連載継続してほしいなら単行本を買って応援してほしい」までならまだ良いが、さらに「発売1週間以内、ダッシュな」ときて「なに電子で買って来てんだ、紙じゃねーと意味ねーんだよ、使えねーな」とまで言い出したら、連載は継続してほしいがお前は死ねと思われても仕方がない。

だが律儀な読者、もしくは都合の良い律儀な読者の幻は「電子派なのですが、紙で買った方が良いんでしょうか?」とわざわざ聞いてくれたりするのだ。
それに対し「出来れば紙で」などと心苦しいことを言わずに「紙と電子両方に決まってんだろバカ」と言えるようになったのはとても良い事である。

読者もイチイチこれでは貢献にならないのではなどと考えず、古本と転売以外で買えばプラスになるというシンプル構造になって良かったと思う。

しかし、紙と電子の差はなくなっても、初速が大事というのは変わってないし、むしろ昔よりもさらに大事になってしまっている。
よって、発売前、発売直後の宣伝は非常に大事であり、特にSNSを使った宣伝はもはや不可欠だ。

もちろん一番読者が見るのは作者本人の宣伝なのだが、編集者や出版社の宣伝も大事である。
私は常日頃から、出版社や担当にSNSをもっとうまく使って宣伝してほしいと思っていたが、出版社も宣伝費人件費が限られている、宣伝に力が入れられるのは売れているか売れる見込みがある作品であり、それは仕方がない。

しかし、今回は出版社側も珍しく気合十分であり、単行本発売日になった瞬間、単行本の発売情報、そしてそれに伴うコラボ情報などを公式アカウントでツイートしてくれた。

つまり「平日の夜中12時」に重要情報をツイートしたということである。

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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